第9章 恋に落ちる 2 【不死川玄弥】
「玄弥は子供じゃない 素敵な男性だよ」
兄貴と向きあった瑞穂さんの足元から上がった風は兄貴の風を取り込み消してしまった
シィィィィィ
型を出す時の呼吸音が響き兄貴が腰を落とし刀を握る
えっ…兄貴なにするの?
「止めろよ兄貴!」
「俺に弟はいねぇ!!!」
「じゃあ…何に怒ってるの?実弥…」
瑞穂さんも腰を落とし兄貴と睨み合う
「玄弥は下がって…私なら大丈夫だから」
あの日…合同任務の時の瑞穂さんの目になっていた
「はっ! 鬼を切れなくなった腰ぬけが!」
「丸腰の女に刀を向けようとしている奴はどうなの?…本当は大事なくせに…正面からぶつかれない弱虫に言われたくないわよ」
「てめえ!!」
小さな竹林が二人の爆風で音を立てて軋んでいる
さすがに兄貴は丸腰相手にもう刀は握ってはいない
格が違う…同じ体勢で睨み合う二人を前にして身動きがとれず見てる事しか出来なかった
でも、不思議と瑞穂さんの方が余裕がある…というか全集中の呼吸が瑞穂さんが遥かに深い
「風で私に勝てるの…刀使えば?」
実弥は私に技では勝てない…
私は漁師の家に生まれ幼い頃から海女の訓練をしていて14歳の頃には大人と同じくらい長く深く潜れていた
15歳の時に鬼に襲われ私だけが生き残り私は鬼殺隊に入隊した
海女だった私は肺が強く全集中常中はすぐに会得してそれを深くする事ができる
その呼吸の深さが技の強さに繋がるのだけど
その深い呼吸から出せる技をより強くする剣技と腕力は実弥の方が遥かに強い
さらに深く呼吸を落とした私の風は轟音となりうねりをあげた
実弥の風をも巻き込んで突風となり実弥へとかなりの風圧で吹き下ろす
凄まじい風圧に実弥は片膝を付いた
「お前は…俺に膝を付けさせるだけの実力があるくせに何で切れなくなったんだ?」
風が止み竹林は何もなかったかのように静かに枝を揺らす
ただ舞い上がっていたおびただしい数の落ち葉がひらひらと落ちてくる
「…鬼と間違えて人の首を落とした…その感触がまだ残ってる…」
「瑞穂さん…」
玄弥の手が突然私の頬に触れる
そこで私は自分が泣いている事に気付いた
「兄貴…ごめん」