第9章 恋に落ちる 2 【不死川玄弥】
悲鳴嶼さんには今日は診察の後に人に会うと伝えてきた
涙を流し「友とゆっくりしてきなさい」と言ってくれた事がちょっと胸が痛い
瑞穂さんの屋敷に向かう途中で商店街に寄った
なんか惣菜でも買おうと歩いていると、コロッケという最近見かける珍しい揚げ物があった
「瑞穂さん喜んでくれるかな」ポソッと呟き瑞穂さんの笑顔を思い浮かべたら「絶対喜ぶよ」と返事が返ってくる
自分の妄想もとうとう喋りだしたと思ったら
本物の瑞穂さんが食材を抱えて笑っていた
「鴉の伝言聞いてから落ち着かなくて買い出しに来てたの、思ったより遅くなったから待たせてるかと心配してたの」
この間俺が切った髪は自分で言うのもなんだけど瑞穂さんに似合っている
もう隊服は着ていなくて、着物に隊士の時に羽織っていた白い羽織をきていた
「荷物持つよ」
そう言って手を差し出したけど
「こっちがいい」と、その手を繋がれてしまった
「玄弥、緊張してるね…鼓動が速い」
瑞穂さんは血の巡る鼓動や人が呼吸する時のわずかな振動を感じとれる
手を繋いだだけで脈拍が分かるなんてやっぱり甲まで登った隊士なんだと思う
指をからませて繋ぎ商店街を抜けて瑞穂さんの屋敷へと歩く
この小さな竹林を抜けると瑞穂さんの屋敷が見えてくる
追い風が吹いて懐かしい匂いと妙な圧を感じた
「瑞穂…どういうつもりだ?」
二人で振り返ると兄ちゃ…兄貴が立っていた
兄貴が俺と瑞穂さんの手に視線を落とすと殺気だった風が足元から上がり、落ちていた竹の葉が舞い上がった
「どうって…恋人だよ?」
同じ風の使い手の瑞穂さんは兄貴の風にも動じる事もなくニコニコと笑っていた
俺は突然現れた兄貴に目が合わせられずかなり動揺して硬直してしまう
乱れてしまった鼓動を直ぐに感じ取ってくれた瑞穂さんは繋いでいる手をキュッと握りしめてくれた
「あ"ぁ" 恋人だぁ?」
兄貴が一歩踏み出しただけなのに空気の圧力が増し竹の葉が高く舞う
「こんな子供をたぶらかすんじゃねぇぞ瑞穂!」
ヤバい…すげぇ怒ってる…瑞穂さんを守らないと…
勇気を出して瑞穂さんの前へ出ようとすると
「玄弥には無理…」
そう言って持っていた荷物を俺に渡した