第8章 願わくば花の下にて 【鬼舞辻無惨】
まさか…私が生きている間に10人目の弥世に会うとは思わなかった
鬼の呪いが消えたのか令和の時代になり私は今だに生きている
最高齢になった私はテレビで紹介された
その日の午後に、高校の制服を着た可愛らしい少女が
「10人目の弥世がご挨拶にうかがいました。そう輝利哉様に伝えて下さい」
そんな事を言って微笑むから、通いのお手伝いさんが「変な高校生がきましたよ」と少し気味悪そうにしていた
100年ぶりに再会した弥世は、あの頃と変わらず可憐で愛らしい鈴蘭の花の様な少女だった
弥世は私の顔を見てポロポロと涙を流し
「また…会えるとは思いませんでした」
と言うと、わーんと声を上げて子供らしく泣き出した
100年前、義勇が連れて来た9人目の弥世は
「残りの命は無惨様の罪を償う為に生きていたいと思っています…犠牲になった隊士の方々の供養をさせてはいただけませんか?
無惨に守られていた女に供養をして欲しくない…そんな気持ちも分かります
その時はあきらめて出ていきます」
そう言った姿が美しかった
生き残った柱と元柱達と話し合い、慎寿郎の屋敷で面倒をみる事になり弥世は23歳で亡くなるまで毎日隊士達のお墓の世話をした
大学生となった弥世は今も、隊士の墓に月に一度は必ず朝から掃除に来てお参りをしている
その日は必ず私にも会いに来て少しの時間話をするのが私の楽しみでもあった
「今年も綺麗に咲きましたね」
二人で広い庭の隅にある藤の花を縁側から眺めてお茶を飲む
「今年は会えそうかい?」
「どうでしょうか…」
寂しそうに笑い、柏餅を一口食べた
「一族の敵だった無惨に言うのも変だが…弥世の為に彼にも新しい人生を送って欲しいと思っているよ」
「輝利哉様は本当に変わらず優しいですね」
弥世は黒く美しい瞳を潤ませた
弥世が生まれ変わるたびにまだ悲しみの連鎖は続いている気がして、私は本当に彼女が無惨に会える日が来る事を望んでいた