第8章 願わくば花の下にて 【鬼舞辻無惨】
「鬼の字が付いた神社か…」
学生の時に教授から神社の名前を聞いた時はなんの因果かと笑ってしまった
人の私が初めてこの藤の木を見た時には
「これもお前の企みなのかい?」
思わず話し掛けてしまい、プロジェクトに参加した他の学生から変な顔で見られたのは苦い思い出だ
駐車場に車置いて、藤の木へと向かう階段を登る途中で子供の声が聞こえた
「センセー!花が多すぎてめんどくさい」
「蜂がいるー怖いー!」
なんとも賑やかな声がする
「簡単な花だったら君達は遊びだすでしょう?このくらい難しくないと一生懸命書いてくれないじゃない
蜂は蜜を集めてるだけだから、ちょっかい出さなかったら刺されないよ
花見に来る人の邪魔にならないようにね!」
近所の小学生が、20人くらいだろうか藤の花の写生に来ていて
口では文句を言いながらも、それぞれがベストポイントに座りスケッチブックを開き藤の花を真剣に見ている
平日なのもあって若い花見客は私ぐらいで、小学生もいる中で長々と花見をするのがちょっと気が引けて何枚か写真を撮って駐車場へと戻った
女性教師の声に一瞬ドキドキしたが、ちょっと年配の人だったので弥世では無かった…
いや…9人目までは15歳くらいの弥世だったが、その歳頃だとは限らないな
今回も15歳の弥世だとして3年は待たないと犯罪になるな…
そもそも鬼でない私の元に弥世が生まれ変わってくるのだろうか?
前世の記憶が甦っても鬼狩りへの憎悪や、完全な体への渇望などの感情は今の私にはほぼ無い
ただ藤の花と、鬼の私の側で可憐に笑う弥世という女性に、最後に言われた「待ってます」と「覚えていて」の言葉に今の私は囚われている…
色々とごちゃごちゃ考えながら車を走らせ大きなショッピングモールに入った
鬼だった私は日が沈んでからしか藤の木に行けなかった
「また夕方に行くか…」
このショッピングモールには割りと大きな図書館が入っていた
とりあえずフードコートで昼飯でも食べて図書館で暇でも潰すか…