第8章 願わくば花の下にて 【鬼舞辻無惨】
「鳴女…」
べぇん!
琵琶の音が鳴り扉が開くと新しい屋敷へと移動した
「会えない間に私の回りには十二鬼月と呼ばれる鬼と、この鳴女と言う鬼が鬼狩達から私を守っている」
「主様、私は何年お待たせしましたか?町の様子も大分違います」
藤の花を差した徳利を私に触れない様に袂で隠し持っている…7人目の弥世も優しい少女だった
「600年…待った…だがそんな事はいいのだ。今…この腕の中に弥世はいる」
顎をすくい上げて深く口付けを交わした
「今は、鬼舞辻 無惨と名乗っている」
唾液で濡れた唇を私の親指で拭った
見下ろした顔は瞳が潤み頬は赤く染まっていて、このまま3日3晩眠る事も食べる事もせずに抱き続けたいとまで思ってしまう
「無惨と呼びなさい」
「はい…無惨様…」
弥世は鬼ではない、そんな事をすれば殺してしまう
「その大事に持っている花はどうするのだ?」
頬を赤く染め揺れて潤んだ瞳を私にむける
「どこか日当たりのいい所に移したいのです あの藤の木が最後に私に残してくれた希望ですから…
まだ息のある藤の木の枝を挿木にしてみようと思います
私を何度も主様の所へと導いてくれる藤の木ですから」
今の屋敷は、廃寺を買い取り改装をしているので庭は広い
「ここの庭に差すといい、咲いてもこの藤の木の花なら私も我慢できよう」
弥世は嬉しそうに
「ありがとうございます」と微笑んだ
7人目の弥世は、広い庭で沢山の花を育て私と一緒に月明かりの中で花見をしたり、松明を燃やして能を舞ったりして久しぶりに雅な時を過ごした
血を分けるのは止めていたので弥世が生きている短い間は、夜に出歩き鬼を増やす事も止め食事をしに町へと行く以外は弥世との穏やかな時間を楽しむ事にした
昼間に自分の食事など生活に必要な買いに出掛けた日は、夜に二人で散歩に行く風景が昼だとどの様に見えるのかを話してくれたり
雨上がりに虹が出た とか日常の些細な事を嬉しそうに話す弥世が愛しくて毎日のように肌をあわせ弥世が居る事に柄にもなく感謝をした
そんな日々が私の太陽の克服への異常な執念を産むことになる
弥世と太陽の下で同じ風景を見たい
そして…7人目の弥世も23歳の時に死んでしまった