第6章 初めての人【宇随 天元】
何度か軽く唇が触れた。次第にしっとりと重なっていく、柔らかな唇は最後に海奈帆の上唇を舌でなぞり離れていった。
198センチと178センチが、生徒用の机に向かい合って座ると、顔を近くに少し動かしただけで唇が触れそうになる
海奈帆が目を閉じると、再び宇随は軽く啄むようなキスをした
宇随の唇が触れるたびに、閉じた目蓋の裏に映像が浮かんでは消えていく
美名保としての辛い日々と最後の幸せな時間が海奈帆の中に雫のように落ちては弾けていく
確かに私は天元と約束をした。16歳で彼を残し逝った。
「…天元様…」
そう言って海奈帆は思わず笑ってしまった。
宇随は頬杖をつき「様…は、いらねぇよ」と柔らかく笑う
「私ね…記憶が戻らなくても天元の事好きになったと思う。
以前の私の人生は16歳で終わって、天元とも1週間位しか過ごせてない。
今の私の方が長く生きてるし、今の天元を沢山知っているから…私は今の天元が好きだよ」
海奈帆も宇随の顔の前に頬杖をつき2人同じ体勢になり海奈帆はニコニコと笑う
「以前の私は美人薄命だったし、大人しい感じだったじゃない?天元は今の私で大丈夫なの?」
「前の美名保も今の海奈帆も変わらないよ、気の強い女だっただろ?
『私に触れたいなら金を払い、私の客として廓に上がれ』って言ったろ…
そんな所が昔も今も好きだ」
チュッと音をたてて唇を吸うと海奈帆は「ありがとう」と言って笑った
海奈帆の後頭部を掴み、たまらず宇随は舌を海奈帆の中に入れ歯列をなぞりその先にある海奈帆の舌を絡めようと口付けを深めた時、海奈帆は宇随の舌をカリッと噛みついてから唇を離した。
「!…って…」
授業の終了のチャイムが鳴った
「時間切れだよ…私も仕事しなきゃ」
準備室の扉を開けて振り向くと「残りは昼休みに食べるから」と言って中庭に行った
「ヤバイ…海奈帆が可愛かった…」
ずっと17歳から海奈帆だけを好きだった。高校の一緒だった1年間に海奈帆は全く思い出さなかったし、冨岡と恋人のふりで手を繋ぎ登校する姿に何度も心が掻きむしられた。
「運命」そんな物が本当にあるなら、海奈帆は俺に気付いてくれる。そう思い大学に進学してからは無理に海奈帆に会う事もやめた。