第6章 初めての人【宇随 天元】
不審者は1人ではなかった。背後から突然抱きしめられ植え込みに倒されそうになる
1人は見張りで、事が済めば次と交代するのか…
海奈帆は膝を折り低い姿勢から背後の男の脇腹あたりに肘打ちを入れる、倒されかけたのもあり上手く入らなかった
「ちっ」
海奈帆は思わず舌打ちをした、実戦から2年近くも遠ざかるとここまで鈍くなるとは不甲斐なし!
「女が男に敵うわけないだろ!」
もう1人から顔に一発くらい口は切れ、鼻に近かったのだろう鼻血まで出た。が、2年前までタイでムエタイ修行に行って、プロにまでなろうとしていた海奈帆が受けてきた拳の重さは全く違う。
普通の女なら気絶する所だろうが、痛みと痺れはあるが海奈帆には戦闘スイッチが全開に入っただけだった。
煉獄と宇随が見回りの最後に来たのが駅の近道であるこの公園だった。
「…悲鳴みたいなのが聞こえた!」
特別に耳のいい宇随にだけ届いた悲鳴だった。
煉獄は、長年剣道をしていて自然と人の気配に敏感になっている。
「宇随…こっちだ」
2人は全速力で公園を走り抜け海奈帆にたどり着いた…。
「海奈帆!」
「立花!」
馴染みのある声に海奈帆は振り返る。
タオルで顔を押さえた海奈帆の足元には痛みで立ち上がれなくなって、呻き声を上げている男が2人倒れていた。
「警察と救急車呼んでくれない?多分肋骨と鼻骨折れてるから」
「立花が?」
「バカ煉獄」
その一言で煉獄は、あぁ…男の方か…と理解した。
ちなみに宇随の聞いた悲鳴は肋骨を折られた男の声だった。
話したせいで鼻血が喉に入ったのか、海奈帆は咳き込み血を吐き出した。
「美名保!」
宇随が海奈帆を抱きしめ震えていた。海奈帆は訳は分からなかったが何故か懐かしい気がしていた。
あれ…こんな事前にもあったかな?
「大丈夫だよ…天元。ちょっと殴られた場所が悪くて出血が多いだけだから、服に血が付いちゃうから離れて」
震える宇随の腕が不思議と心地いいのだけど、抱きしめられたままの状態を煉獄に見られるのが恥ずかしくて
「煉獄助けて!」と訴えて宇随を引き剥がしてもらった。