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かわいいひと

第6章 初めての人【宇随 天元】





笑う冨岡を、海奈帆は優しい顔で眺めて少し微笑み不死川を見る



「冨岡に免じて許す!」


そう偉そうに言うとお疲れ様でした。と、これまた運動部のようなバックを斜めに掛け帰って行った。



不死川はその後、部屋でくつろぐ冨岡に

「お前の事、優しい顔で見てたぞ」

そんな嫉妬じみた事を言ってしまった。まぁ、気になるほどの表情だったから仕方がない。冨岡は珍しくそんな事を言う不死川にキュンとした。
今度は冨岡が不死川を優しい笑顔で見つめた。




「立花は知ってるんだ俺が女を愛せない事を、だから俺に彼氏の振りをさせたんだ。守られてたのは俺だったんだ…本当は」


「…………そう、か…。」


「あの様子だと気付いてるようだな。立花にだけは知ってほしい、今の俺は幸せなんだって事を……不死川が嫌なら無理にとは…」



「いいぜ…今度家に呼べよ。幸せなんだろ?」


柄にもなく顔を赤くした不死川に冨岡はにじりより「ありがとう」と抱きしめ甘い夜が始まった。



















美名保の水揚げ当日。相変わらず赤い着物を着て、初めての旦那の為に美しく仕上げられた牡丹の花の様な美名保がいた。

少し前の唄えや踊れやの賑やかな座敷とは変わり、赤い布団の横に座り薄明かりの中美名保は待っていた。旦那になる方もすぐに寝間に行きたい所だが、がっつくのは野暮ってもんで、余裕のある旦那の振りをして座敷でまだ酒を飲んでいる。

宇随は屋根裏に居た。

新造の時とは違い髪も結いあげ、とろりとしたべっ甲の簪が赤い色を纏った美名保をより艶やかにしていた。


あの日不覚にも初めて触れた美名保の体の柔らかさに体の芯が熱くなった。顔を真っ赤にしながらも、宇随の目を凛とした姿で見返した美名保を殺すのは勿体なくもある。

緊張の為が美名保は袂で口を隠してコンコンと咳を何度もした。最後にゴフッと、湿り気のある咳をして顔を上げ懐紙で口を拭った。



ーーふわりーー

美名保の前に何処から現れたか、黒装束の男が舞い降りた。


「…だから赤い着物なのか?」


声に聞き覚えがある。そう思うが迫り上がる咳を我慢できずに、赤い布団に顔を埋め精一杯音を消しながら肩を揺らし、咳き込むと大量の血を吐き出してしまった。



あぁ……また、真っ赤な血を吐いてしまった。


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