第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
『俺の未練の原因を捜すのを、手伝って欲しい。このままでは取り返しのつかないことになってしまう』
「取り返しのつかないことって、どういう事?」
『案内人の話では、本来なら死んだ者はあの世に行くのが定めであり、いかなる例外も認められない。だが、今の俺は彷徨える魂としてこの世にとどまってしまっている。このままでは俺は成仏できず、しまいには悪霊となって害を及ぼす存在になってしまうということだった』
悪霊という言葉を聞いて、汐は顔を引き攣らせながら煉獄を見た。
『俺の魂が悪霊となってしまえば、俺の意思とは関係なく他者を傷つけてしまうだろう。それだけは絶対にあってはならない。そうなる前に、何としても俺はあの世へ行かねばならないんだ。君にこのようなことを頼むのは心苦しいが・・・』
煉獄の苦しそうな声に、汐の身体は震えた。この人は死んでも尚、自分よりも誰かの事を優先している。
生前と何も変わっていない、誇り高き魂を垣間見た汐は、深くうなずいた。
「わかったわ。必ずあなたの未練を断ち切って、成仏させてあげる!」
汐の力強い言葉に、煉獄はあの時と同じ、彼女の中にも誇り高き魂を感じた。