第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
煉獄の姿や声は、汐にしか認知されないため、はたから見ればひとりでしゃべっているように見えてしまうため、汐は煉獄にだけ聞こえるような声で近況を説明していた。
その時だった。
「汐・・・・!」
聞き覚えのある声と足音がして、汐は縁側から飛び降りてその方を見た。そこには、市松模様の羽織を纏い、耳に飾りをつけた少年、竈門炭治郎の姿があった。
だが、炭治郎は目をいっぱいに見開き、汐の後ろを震えながら見つめていた。
「そんな、嘘だ。どうして、どうしてあなたが・・・!!」
「炭治郎、まさかあんたにも、見えるの?」
炭治郎の"目"には驚愕が宿っており、汐は瞬時に彼も煉獄の姿が見えていることに気づいた。
『むっ!!竈門少年!!君にも俺の姿が見えるのか!!大海原少女の勘は正しかったようだな!!』
それを知った煉獄の顔が、みるみるうちに笑顔になり、それと対照的に、炭治郎の両目にはみるみるうちに涙がたまった。
「煉獄さん・・・!煉獄さんッ・・・!!俺は、俺はあなたを・・・!あなたを救いたかった・・・!!それなのに…俺は何もできなくて・・・それでっ・・・!!すみません!すみませんッッ!!」
『落ち着け、竈門少年!どうして泣くんだ?俺は君に謝られるようなことをした覚えはないのだが・・・』
嗚咽を漏らす炭治郎に、煉獄は困惑し汐を見ると、汐は炭治郎の傍に駆け寄り、その背中をさすった。
「炭治郎落ち着いて。これにはいろいろと訳があるの。詳しいことを話すから、あたしの屋敷に行きましょう」
汐は泣きじゃくる炭治郎の背中をさすりながら、袂からハンカチを取り出し渡すと、すみに少しばかり炭治郎を借りると告げて蝶屋敷を後にした。