第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
『だが、俺は川を渡った後その先に行くことができなかった。何度試しても、それ以上進めず困り果てていた時だった。どこからか声が聞こえ、俺はこの世に未練があり成仏できなくなってしまっている、ということだった』
煉獄は困ったように眉根を下げながら、更につづけた。
『本来ならこのようなことは起こらないらしいのだが、俺の未練があまりにも強すぎて、あの世でも対処が仕切れないそうだ』
「あの世から弾かれるって、あんたどんだけ規格外なの!?死んでても規格外ってどういう事!?」
汐がまくし立てると、煉獄はそれに合わせるようにけらけらと笑った。
『それでやむを得ず、俺があの世へ行けない原因をこちらで探すことになったのだが、魂魄になったせいか、一部の記憶が抜け落ちてしまい、何が未練になっているのか思い出せなくなってしまった。何とかしようにも、俺の姿は誰にも見えず、誰も俺の声が聞こえないようで途方に暮れているところに、君の事を思い出した』
「えっ・・・?」
『もしかしたら君ならば俺の姿が見え、声も聞こえるのではないかと思い、君を必死で捜し、ここにたどり着いた。このようなことになり、君もさぞかし困惑しているだろうが、君にどうしても頼みたいことがあるんだ』
煉獄はそう言うと、深々と頭をたれ、真剣な声色で言った。