第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
「あの、その、もう一回聞くけれど、あんた本当に、煉獄さん?」
少しだけ落ち着きを取り戻した汐がそう言うと、煉獄は『うむ!』と、目を見開いて答えた。
「ど、どうして!?だって煉獄さんは、あの時に・・・!!」
汐の脳裏に、忘れもしないあの時の光景が蘇った。
無限列車で夢を見せる鬼と戦った後、突如現れた上弦の参の鬼と戦い、煉獄は若い命を散らした。
その最期の時は汐も見届けており、そのことをきっかけに汐は新たな道を踏み出した。
なのに、今目の前には、旅立ったはずの彼がふわふわと浮かびながら汐を見ていた。
(あの時に煉獄さんは確かに死・・・、亡くなったはず。それは間違いない。でも、目の前にいるのは間違いなく、本物の・・・)
『む?俺の事が気になるか?君の記憶の通り、俺はきちんと死んでいる!その証拠にほら!壁はすり抜けられるし、歩くこともできん!』
「いや、きちんと死んでいるって何!?意味が分かんないんだけど!?っていうか、人の屋敷を飛び回らないでよ!」
生前と変わらず屈託のない笑顔で笑う煉獄に、思わず汐は声を荒げた。
『とは言ったものの、実は俺自身も何故このような状態になっているのかがよくわからん!』
「へっ!?」
『あの日、俺は猗窩座と戦い確かに死んだ。あの世の使いのようなものが迎えに来て、俺は確かに三途の川を渡ったはずだった』
煉獄はふわりと汐の前に降り立ち、語りだした。