第5章 小さくて大きな忘れ物(前編)
青い髪の少女、大海原汐は、一人で住むには広すぎる屋敷の自室で寝息を立てていた。
その日は、彼女の師範甘露寺蜜璃の計らいで、一日の休みをもらっていた。
久しぶりの休みを満喫しようと、汐はいつもより長めの睡眠をとっている最中だった。
だが、その計画は、突如響いた大声によって見るも無残に破壊された。
『起きろ、大海原少女!!よい朝だぞ!!』
耳をつんざくような大声に、汐は弾かれるように飛び起きたが、あたりを見回してもそこに人の姿はなかった。
(気のせいかな。今、ものすごい聞き覚えのある大声で呼ばれたような・・・)
汐は首をかしげながら、ふと視線を天上に移した時、そこにいたものに、彼女の視線はくぎ付けとなった。
そこには、赤と黄色の特徴的な色合いの髪に、零れ落ちそうなほど大きく目を見開いた、一人の男。
汐はその男に見覚えがあった。否、忘れたくても決して忘れることなどできない存在。
――煉獄杏寿郎が、そこにいた。
『うむ!ようやく目を覚ましたか、大海原少女!こんな清々しい朝だというのに、いつまでも寝ているのは感心しないぞ!!』
煉獄はニコニコと笑いながら、横たわる汐を見降ろすようにして浮かんでいた。
それを汐は数秒ほど眺めていたが――。
「ぎぃやあああああああああああああああああ!!!!!」
耳をつんざくような悲鳴が、その後15秒ほど続いた。