第4章 一日遅れの祝い唄(竈門炭治郎生誕祭特別編)
それから時間は過ぎ。
「ただいま戻りました」
日がだいぶ傾いたころ、炭治郎と禰豆子は単独任務から蝶屋敷へ戻って来ていた。それ程苦戦はしなかったものの、命を懸けた戦いの後の疲労にはどうも慣れなかった。
「禰豆子、大丈夫か?今日も助けてくれてありがとうな」
炭治郎は箱越しにそう言うと、禰豆子は返事の代わりに箱の内側をカリカリと引っ掻いた。
「・・・はあ」
だが、その笑顔は口から出た溜息と共に曇った物へと変わってしまった。
昨日は、炭治郎の誕生日であり、蝶屋敷の者たちが彼の為に宴を開いてくれた。汐にも鴉を通して連絡したのだが、数々の不運が重なり汐が宴に現れることはなかった。
そのせいか、炭治郎は昨日の夜からずっと元気がなかった。
(いや、何を落ち込んでいるんだ。汐だって俺と同じ鬼殺隊員。いつ何時任務に駆り出されてもおかしくない。今回はたまたま、俺の誕生日と重なってしまっただけだ)
そう自分に言い聞かせて平常心を保とうとするものの、やはり彼女からの祝いの言葉が効けなかったという事実に、彼の心は沈んでしまっていた。
(汐、今頃何をしているだろう。無茶をしたりしていないだろうか)
ここの所炭治郎は、気が付けば汐の事ばかり考えていた。呼吸は違うものの、同じところで修行をした兄妹弟子。自分が辛いときにいつも支えてくれた、大切な人。
最近は仕事も忙しくてなかなか会えず、そのもどかしさも炭治郎の心をかき乱していた。
(会いたいなあ・・・)
そんなことを考えながら門を通った瞬間。炭治郎の鼻を、優しい潮の香りが掠めた。
(この匂いは・・・、まさか!!)
炭治郎はいてもたってもいられず、転がるように屋敷の中へ駆け込んだ。すると、炭治郎の帰宅を待っていたのか、すみが同じく転がるように奥から走ってきた。