第3章 縁、結びし(ホワイトデー特別編)
その頃別の場所では。
「あれ?炭治郎何かいいことでもあった?」
炭治郎からうれしい音がする事を感知した善逸が、怪訝そうな顔で彼を見つめていった。
「ああ。この前の任務の帰りに、汐に贈り物を買ったんだ。この間汐にもらったもののお返しができていなかったから」
炭治郎の言葉に善逸は顔を歪ませると「へぇ~」とだけ答えた。
「でもまさかあそこまで喜んでくれるとは思わなかったよ」
「俺もお前の惚気話を聞かされるとは思わなかったよ」
と、善逸はぶっきらぼうに言うが、ふと炭治郎が何を贈ったのかが気になった。
良くて天然、悪く言えば鈍感な彼が、女の子を喜ばせる贈り物を贈ったことが気になったのだ。
「ところでお前何を汐ちゃんに贈ったんだ?あの子が喜ぶって相当だと思うんだけど・・・」
「ああ、櫛だよ。汐が櫛を欲しがっていたってきよちゃんから聞いて、それで・・・」
しかし炭治郎がそれ以上言葉を紡ぐ前に、善逸の拳が炭治郎の左頬を強く穿った。不意のことで受け身が取れず、炭治郎の身体はなすすべもなく吹き飛ばされた。
「な、なにをするんだ善逸!!」
いきなりの事に流石の炭治郎も憤慨し、体を起こして声を荒げた。だが、
「何をするんだはこっちの台詞だ馬鹿野郎!!お前、お前それがどういう意味なのかわかってやってんのかあああ!!」
何故か善逸は顔を真っ赤にしながら、唾を飛ばしてまくし立てた。その尋常じゃない様子に炭治郎の怒りは瞬時にしぼみ、恐れに変わる。
「ど、どういうことなんだ善逸。なんでそんなに怒っているんだ?」
「どうもこうもあるか!!お前、男が女の子に櫛を贈る意味を知っているのか!?」
「え?何か意味があるのか?」
炭治郎が聞き返すと、善逸の怒りはさらに激しくなり「くぁwせdrftgyふじこlp!!」と途中から声にならない声を上げた。
「いいかこの鈍感馬鹿野郎!!女の子に男が櫛を贈る意味ってのはなあ!!!」
――『求婚』の意味なのよ(なんだよ)――
その後、顔を合わせた二人の関係がしばらくぎくしゃくしたことは言うまでもなかった。