第3章 縁、結びし(ホワイトデー特別編)
翌朝。
「~~~♪」
鼻歌を歌いながら汐は炭治郎からもらった櫛で髪を梳かす。よい品物のせいか、汐の硬めの髪質でも滞りなく歯が通っていた。
そのせいかはわからないが、心なしか髪に艶が出たようにも見えた。
そんな汐の背中に、しのぶは笑いながら声をかけた。
「おはようございます、汐さん」
「あ、しのぶさん。おはよう!」
いつも以上に元気な声に、しのぶの表情が自然に緩む。するとその隣から別の人物がひょっこり顔を出した。
「おはよう、汐ちゃん」
「あれ、甘露寺さん?来てたの?」
思わぬ人物の登場に汐は驚き、甘露寺は任務を済ませ、少しだけ休むために蝶屋敷を訪れたことを言った。
「それにしても、汐ちゃんずいぶんうれしそうね。何かいいことでもあったの?」
「うん。櫛を新しくしたら、髪が少しだけよくなった気がするの!」
汐はそう言って今使っていた櫛を二人に見せた。魚の文様が描かれた本つげの櫛。二人の目からしてもかなりいいものであることが分かった。
「あら素敵な櫛。しかも本つげね。どうしたの、これ?」
「炭治郎があたしにくれたの。あたしが櫛を駄目にしたことを知って、わざわざ買ってきてくれたみたい。あいつって本当に気が利くわよね」
そう言って笑う汐だが、しのぶと甘露寺は目を見開くと互いに顔を見合わせた。そして。
「きゃあああああああ!!!」
「あらあら、まあまあ」
突然甘露寺が頬を染めながら突然甲高い声を上げた。それに汐は思わず肩を震わせ、しのぶはにやけつつも、大声を出す甘露寺を静かに諫めた。
「ご、ごめんなさい。でもあまりにもその、可愛らしくて」
甘露寺がそう言うと、しのぶもそれに少しばかり同意した後二人は汐に向き合った。
「汐さん。男性が女性に櫛を送る意味をご存じですか?」
「意味?知らないけど、なんか意味があるの?」
「ちゃんとあるのよ。とても素敵な意味が。あのね、殿方が女性に櫛を送る意味はね――」