第3章 縁、結びし(ホワイトデー特別編)
「ただいまー!あー、疲れた!!」
単独任務が終わり汐が蝶屋敷に戻ってくると、玄関に見覚えのある履物があった。炭治郎と禰豆子のものだ。
そのまま屋敷に上がり、荷物を下ろしていると奥から炭治郎が姿を現した。
「あ、汐。帰ったのか!」
汐の姿を見るなり、炭治郎は嬉しそうに駆け寄ってきた。心なしか、彼の目がいつもより輝いているように見える。
「あんたも帰ってたのね。それより何だか嬉しそうだけど、何かあったの?」
「汐を待ってたんだよ。お前に渡すものがあって」
渡すものと言われ、汐が怪訝そうな表情をすると、炭治郎は徐に懐から小さな包みを取り出した。
「なんだろう?開けてみてもいい?」
「ああいいぞ」
炭治郎の許しをもらい、汐はすぐさま包みを開けると、そこにあった物を見て目を見開いた。
「これって・・・櫛?」
そこにあったのは魚が描かれた、一つの櫛だった。
「ああ。この前きよちゃんが汐の櫛が壊れてしまったって聞いたから、任務の帰りに買ってきたんだ」
「買ってきたって・・・これ、かなりいい櫛じゃない。結構したんじゃないの?でも、なんで?」
驚きのあまりしどろ戻りになる汐に、炭治郎は少し照れ臭そうに言った。
「前にお前が俺に根付をくれただろ?そのお礼がまだだったから、それも兼ねてだ。もしかして気に入らなかったのか?」
炭治郎の言葉に汐は首を横に振ると、櫛を両手で包むようにして持ちながらほほ笑んだ。
「ありがとう。凄く、凄くうれしい!大切に使うわね」
「あ、ああ!」
汐の幸せそうな笑みと、心からうれしそうな匂いに炭治郎の胸が音を立て、顔に熱が籠った。そんな彼の眼はいつも以上に輝き汐の心も皺背にさせていた。