第3章 縁、結びし(ホワイトデー特別編)
「いたっ!」
洗面台の前に立っていた汐は、髪に痛みを感じて小さく悲鳴を上げた。視線を動かせば、小さな櫛が髪に引っ掛かってしまっていた。
顔をしかめながら櫛を外すと、歯の一部が小さく欠けてしまいそこに真っ青な髪が引っ掛かっていた。
「あちゃーっ。また壊れたか。やっぱり手ごろな櫛じゃあ駄目か」
汐はがっかりした表情で櫛を外すと、かけてしまった櫛をまじまじと見つめた。
「あれ?どうしたんですか?」
そんな汐の元に、通りかかったきよが怪訝そうな顔をして問いかけた。
汐は欠けてしまった櫛をきよに見せながら、困ったように笑いながら言った
「あたし、体質のせいかそれとも海暮らしが長かったせいか、髪が傷みやすくて櫛が通りづらいのよ。そのせいで、櫛もすぐに壊れてしまうことも多いの」
「そうだったんですね」
「別に生活に支障があるわけじゃないからいいんだけど、でも、やっぱり。見た目が綺麗な方が少なくとも悪い印象は与えないわよね」
髪を指でつまみ、汐は複雑な表情で姿見を見つめた。今まで身だしなみに無頓着だった彼女が気にするようになったのは、ある人物の影響が強かった。
そうでなくてもただでさえ男と間違われるため、せめて見た目だけでも女らしくなりたいと思う気持ちもある。
(とはいえ、この櫛はもうだめね。もっといい素材の櫛があればいいんだけれど、結構するからなあ)
「あの。その櫛、供養に出しましょうか?」
「え、いいの?」
「はい。任せてください」
「ありがとう。あたし、これから任務だから宜しくね」
汐は櫛を丁寧に紙に包むと、きよに渡してその場を後にした。その後ろから炭治郎が角を曲がってくることに気づかないまま。