第6章 身だしなみは誰かの為に
「着方は合っていると思いマス」
前を歩く村正様が言う。
「帯の結びも、半幅帯ならそれでよいのでは?所詮、普段着デス。正解も不正解もないでショウ。着たいように着ればよいのデス。煩わしいなら脱ぎマスか?」
顔だけを振り返り、からかうような笑みを浮かべる村正様。
「ぬ、脱ぎ…ません」
「huhuhu…。冗談デスよ。華やかな場所へ出なければならない時は、彼等が喜んで着飾りにくるでショウ。任せればよいのデス。本丸内ではアナタの好きにすればよいのデス。周りを気にする事はありません」
今度は体ごと振り返り、一歩詰め寄った。
「ただし…」
伸びて来た村正様の腕が腰元から背中へと回り、また一歩詰め寄る。
「着付けはもう少ししっかりとした方がよいデショウ。 下手に着崩れるのは目に毒デス」
耳元でそう囁かれ、帯がほどかれると
「村正ぁぁぁぁぁ!!」
どこからか、叫び声が聞こえた。