第5章 歓迎は心して受けよ
ガシッガシッガシッ…
ブラシで擦る音が響いている。
「君が居てくれて助かるよ。他の皆は僕が声を掛けようとすると逃げちゃうんだよね」
ニッコリと微笑む髭切様の言葉に、そりゃそうだろうと思った。
彼は『手伝って』と言ったはずだが、実際は私一人で掃除をしているようなもの。
髭切様もやる気が無いわけではないのだが、『ありゃ』『どうするんだっけ?』が多く、やり始めても、全く違う事をして余計な仕事を増やしてくれる。
先程も、洗剤を全部ぶちまけ泡風呂の様にモコモコの浴槽が出来上がっていた。
旅館程の広さのあるこの露天風呂がその状態なので、始末に取られる労力は相当である。
それでも…
仕事をもらえるというのは、
役割をもらえるというのは、
居場所の無い今の私には有難いのかもしれない。
「こんなに広くて綺麗な露天風呂があるんですね」
独自の空間にあるという本丸は周りを気にする必要がないからか、すごく解放感のある露天風呂だ。
今は新緑が生い茂っているけれど、紅葉や雪、桜の咲く季節なんかもきっと綺麗だろう。
「皆が入るからねー。なんなら君も一緒に入っていいんだよ」
ニコリともニヤリとも違う、またニッコリと髭切様が微笑む。
失礼かもしれないけれど…
髭切様の笑顔は何だか意味ありげで裏がありそうに見えてしまう。
思わず曖昧に微笑み返せば、
それをYESと捉えたのか、
「そうだね。掃除が終わった一緒に入ろうか?」
と、髭切様が言った。
一緒って…
「わ、私は、ご遠慮します」
「ありゃ?残念。掃除当番は一番風呂の権利があるのに」
「い、否。私はお手伝いですし、ここは男士様の浴場ですから、結構です」
「いいから。いいから。弟が帰ってきたら一緒にはいろうか」
「えっ?あのっ…。えっと…」
こちらの反応等お構い無しに、
「背中ながしてくれる?ね?」
じわりじわりと詰め寄られる。
この、やんわりとしている様に見えて有無を言わさない感じがどうも苦手だ。