第4章 『約束』は頷くべからず
暑い…
苦しい…
「…っはぁ。はぁー」
全力疾走でもしたかのような肺の苦しさで目が覚めた。朝だ。
どうやら夢を見ていたらしく、そのぼやけた残像が頭に残っている。
残っているハズなのになんの夢だかはよくわからない。
「すまん。俺のせいだ」
声の方へ視線を向ければ、部屋の端に座っている薬研様の姿。
「えっ?薬研様?ずっと居たん…ですか??」
「一応な。あんた、あれからなんの警戒もなくすぐに寝ただろう?夜這いする刀が居ないとも言い切れんからな」
「よばい…ですか?」
「俺達は執着すると言っただろう?」
「ははっ」と笑う薬研様。
どうしたのかと首を傾げれば。
「俺達は執着するんだ…」
とまた呟いた。
「薬研様??」
また、悲しげに笑う薬研様。
困った様な、辛そうな表情。
この人は何故こんな表情をするんだろう??
「すまんな。俺達は持ち物だから持ち主に執着もするし、持ち主の影響も受ける。それは今の大将に限った事じゃなくて、元の主の影響も受けるんだ」
「元の主…ですか?」
「あぁ。一人の主に長く仕えた刀も居れば、たくさんの主の元を渡り歩いた刀も居る。それぞれの元の主に対する想いも違うし、鮮明な記憶がある奴も居れば無い奴も居る」
「だから、 まぁ…」と畳を見つめていた薬研様が顔を上げた。
「あんたが見たのは俺の記憶だ」
立ち上がった薬研様が二、三歩距離を詰めてくる。
目の前にしゃがみこみ、正面で私の顔を見据えると言った。
「存外…俺もあんたに執着したらしい」