第4章 『約束』は頷くべからず
「ほら、貸してごらん?」
目の前に立つ男士様は笑みを浮かべてはいるが、有無を言わさない威圧感を感じる。
「ありゃ?どうしたの?」
ぐいと顔を近づけられて、思わず一歩引いた。
「聞こえ無いのかなぁ?どう思う?えっとー、肘丸?」
「膝丸だ兄者。兄者が持たずとも、俺が持とう。ほら早く寄越せ」
いつの間にか、もう一人。
『兄者』と呼ぶと言うことは兄弟なのだろうか?
ずいっと目の前に差し出される2つの手。
神様に自分の膳を持たせるわけにも行かず、
「じ、自分で…持て、ますので…大丈夫です。」
喉から声を振り絞ってお断りをすると、
「うーん。でもね、せっかくだから粟田口の子じゃなくて僕を選んで欲しくてね。優しくした方が喜んでくれるかなぁって」
「そうでしょ?」とまた顔が近づき、とうとう固まってしまった。
「そうだ!我々は源氏の重宝。選ぶなら他の刀ではなく兄者を選ぶべきだ!」
また、『選べ』と言われた。
ざわざわと、男士様達が騒ぎ出す。
「ちょっと待て!!」と声が上がる。
選ぶとは何の事?
なぜ、私が誰かを選ぶの?
何の為に…?
分からない…。
すると、
不意に胸がざわざわとした。
締め付けられるような…
苦しいような…
ざりざりと押し寄せる不安感。
どうしたらよいのか、
何をすべきかがわからない。
この人達の事が、
向けられる視線が、
私がここに居る意味が、
何もかも全てがわからない。
怖い。怖い…。怖い…。
「彩?」
ふと、手元から膳の重みが消えた。
私から膳を取り上げた審神者様が心配そうに私の顔を覗き込む。
「どうした?」
問いかけられて、首を横に振った。
自分がどうしたのかが自分でもわからない。
ただ、怖い。何もかもが…
「彩?」
「…怖い。怖いです。怖いです」
「…わかった。髭切、膝丸、下がれ」
審神者様が二人に命ずる。
「秋田、ちょっと落ち着け」
今度は秋田様に声を掛けた。