第4章 『約束』は頷くべからず
「名乗るのが遅くなったな。俺っち薬研藤四郎だ」
この子も「とうしろう」と言った。
確か、秋田くんが「藤四郎はたくさんいる」と言っていたので、その内の一人なのだろう…。
秋田くんと比べると、随分しっかりした子。
見た目はともかく、しゃべり方や雰囲気は男子よりは男性に近い。
「まず始めに、俺達は刀剣男士だ。人間ではなく刀の付喪神だ」
『まず始めに』の始めが、何だかとんでもない事を言われた気がする。
にわかに信じがたいような…
「付喪神…」
付喪神って、あの付喪神?
昔話とか、ジブリなんかにも出てくるような付喪神?
でも薬研くんの様子からして、からかわれている訳でもなさそうだ。
「そう、だから神様の端くれってわけさ。俺達は短刀だから見た目は幼いが、こう見えて結構な歳だぜ。あんたなんて赤子みたいなもんさ」
秋田くんに手を引かれ、本丸案内の続きを受けながら、薬研くんが話してくれる。
否…彼等を『くん』と呼んでいいのだろうか?
彼が言うように本当に神様だとしたら『様』をつけるべきではないだろうか…?
神様相手に先程から随分と失礼な事を…
「あ、あの…」
「なんだ?質問か?」
「い、いえ…。あの…神様とは知らず、先程からの御無礼をお許し下さい。秋田様。薬研様」
私が頭を下げると、手を引いていた秋田様が「やめて下さい」と声あげた。
「呼び方なんてどうでもいいんです。それよりも彩様の事を知りたいです。仲良くしたいです。ずっと此処にいて欲しいです」
下から私の顔を覗き込む彼。
「薬研兄さんもそうですよね?」
そう問いかける秋田様に、
「あぁ。そうだな」と薬研様は笑った。
「『仲良く』だな」と。
その顔が、なんだか悲しそうな切なそうな表情をしていたのは気のせいでは無いと思う。