第2章 世界で一番お姫様 / ◆
(俺ばかり、好きになってる気がするな)
美依を抱いて城下を歩きながら…
俺はその小さな温もりを堪能するように、わざとゆっくり足を進めた。
これ程までにハマった女も居なかった。
だから美依は特別で……
こんなに色恋が俺の中を占めるなんて、思いもしなかった。
だからこそ思う。
俺の気持ちが大きすぎて、不安にもなる事。
こいつが可愛すぎて……
常に俺の方を向かせておかなきゃと焦る事。
────そのくらい、愛してるんだ
小さくても大きすぎる存在。
そんなかけがえのないこいつに、俺はもっと色々してやりたい。
だから、やっぱり嫉妬なんてするんじゃなかったなぁと……
改めて自分の不甲斐なさに情けなくなりつつも、挽回する機会を逃すまいと、抱く腕に力を込めたのだった。
*****
「おや秀吉様、美依様もいらっしゃいませ」
呉服屋に着いてみれば、穏やかで物静かそうな店主が、にこにこと笑みを浮かべて出迎えてくれた。
店内には鮮やかに染められ、織られた上品そうな着物が並んでいる。
俺は美依を降ろすと、それらに目配せし…
目的の着物があるのを確認すると、店主に声を掛けて呼び寄せた。
「あの桃色の着物を見せてくれないか」
「辻が花のお着物ですね、さすがお目が高い。少々お待ちくださいませ」
「ちょっ…秀吉さん…!」
「どうした?」
「なんで、あの着物だって解ったの…?」
店主が着物を衣桁から外しているのを見ていると、美依が俺を見上げて驚いたように言った。
なんでって…愚問だな。
俺がお前の欲しい物くらい、解らない訳がない。
俺は口元で弧を描きながら、美依の頭をぽんぽんと撫で、その理由を説明してやった。
「お前、反物屋はよく行くけど、呉服屋はあまり来ないだろ?前の逢瀬で珍しくここに来た時、あの着物…ずっと見てたから」
「秀吉さん…」
「だから欲しいんだろうなって。すぐに買ってやれなくてごめんな、きっと良く似合うぞ」
「……っ」
すると、美依は真っ赤な顔をして俯く。
その表情は困ったような戸惑ったような……
何とも言えず可愛い顔なので、目が離せなくなった。