第2章 世界で一番お姫様 / ◆
「お待たせ致しました」
直ぐに店主が微笑みながら、美依に着物を渡してくれる。
美依は少し遠慮がちにそれを受け取り、それでも瞳を輝かせて着物に視線を落として……
そして、どことなく嬉しそうに見えたので、俺はほっと胸を撫で下ろした。
(これで、少しは機嫌直るといいけどな)
流れるように花柄の入った着物は、美依にとても似合いそうだ。
折角ならそれに合う帯や小物も贈ってやりたい。
俺はそう思い、美依に『今すぐ着てみたらどうだ?』と提案すると、美依はまた瞳を輝かせて俺を見上げた。
「いいの……?」
「いいよ。店主、頼む」
「はい、では奥にどうぞ」
「ありがとう、秀吉さん」
美依はにこっと笑って、店主と店の奥へと消える。
その笑顔を見て……
心には温かな物が広がると同時に、焼け付くような激情にも襲われた。
だめだ、可愛い。
本当に可愛い…参ってしまう。
だめだなぁ、俺。
やっぱり美依の事が本当に好きだ。
店内を見て歩き、帯や帯留め、草履などを選びながら……
こんないい女、嫉妬しない方が無理だ。
やっぱり、光秀から受け取った物が気になる。
何でもないと言われても……
美依を笑顔にした、それが気になる。
(聞いたらやっぱり、怒るだろうか)
並んだ簪を一本手に取り、それをじっと見つめた。
華奢な鎖の先に、硝子玉が付いていて……
少し動かせば、シャラン…と清い音が鳴った。
やっぱり、もう一度聞いてみよう。
どうしても言いたくないなら、仕方ないが。
こんなにもやもやしたままでは……
どうしても、煮え切らなくて駄目だ。
そう小さく心に決めた時。
『お待たせしました』と言って、美依と店主が店奥から戻ってきた。
「秀吉さん、どうかな……?」
「ん、可愛い」
「……っありがとう」
素直に褒めれば、美依ははにかんだように俯いて赤くなる。
俺はそのまま美依に近づき、手に持っていた簪を結い上げられた髪にそっと挿してやった。
(ああ、やっぱり良く似合う)
辻が花の着物を纏った、俺のお姫様。
もう誰にも見せたくないくらいに…可愛い。