第7章 蝶々結びの秘め事 / 秀吉END
「秀吉さんっ……!」
その時だった。
政宗に跨る俺の背中に、ふわりと温もりを感じて。
振り返ってみれば、美依が背中から俺を抱き締めていた。
腹に回された腕は小刻みに震えていて……
顔を見れば、涙を流して俺を見つめ返してきた。
「お願い、刀を仕舞って、秀吉さん…!」
「……美依」
「私、今はっきり解ったの。秀吉さんの想いも、私の想いも」
か細い声で言葉を紡ぐ美依。
それは……
ずっとずっと聞きたかった、心からの本音。
「あの雨の日、秀吉さんを意識してから…私はずっと、秀吉さんしか見ていなかった。貴方の熱を抗う事は出来なかった。それはきっと…心の底では貴方を想っていたからだって。でも、政宗を傷つけてはだめ、政宗は優しい人だから。私はそんな秀吉さん、見たくないよ……!」
(美依……)
その言葉に、胸が熱くなる。
美依は…想っていてくれたのか?
こんな俺を、自分は傷ついたのに。
俺を、見ていてくれたのか……?
俺がゆっくり地面から刀を引き抜き、鞘に仕舞うと、美依は俺から身体を離した。
そして、俺はそのまま政宗の上から降り…
その身体を起こすように腕を引くと、政宗は立ち上がりながら、苦笑いを浮かべた。
「俺が負けるなんてな、しくじった」
「政宗…悪かったな、刀を向けて」
「最初に向けたのは俺だろ?まぁ…美依の気持ちもはっきり解ったし、色んな意味で完敗だ」
すると、政宗はこぶしを握り、俺の肩をトンと叩いて。
そして清々しい声で言葉を紡ぐ。
何かを悟ったような…そんな声色で。
「大事にしろよ、美依を。俺は本気で認知する気で居たんだ、搔っ攫う予定だったが…美依にそう言われちゃな。子どもが生まれたら、奥州にも遊びに来い。美味い料理作って…歓迎してやるよ」
(政宗……)
他の男の子を認知するなんて……
どのくらい覚悟がいることか計り知れない。
それだけ、お前も美依を想っていたんだな。
それでも譲れないけれど。
こいつの男気だけは……
俺も敵わないなと、そう思った。