第7章 蝶々結びの秘め事 / 秀吉END
「二人がそのような関係になっているのは知らなかったがな。まぁ…それで良かったのだろうが」
「……」
「子が出来たようだからな」
「え……?」
その瞬間。
信長様の言葉に耳を疑う。
そして、語られたのは───………
寝耳に水の、嘘と真実。
「美依が子を孕んだらしい、政宗は俺の子だと申していた。二人で家庭を築き、幸せに暮らすのも悪くないだろうからな」
「────…………!」
蝶々結びの関係。
身体だけの繋がり。
美依が二人と関係を持つなんて、
そんな器用な性格ではない事くらい知ってる。
それが意味すること。
つまり美依は───………
────あいつは、俺の子を
「……っ」
「秀吉、どうした」
「信長様、お願いがあります……」
「……?」
『見合い話、無かった事にさせてください』
俺は馬鹿だ。
こうなる事を、予想していたはずだ。
むしろ"こうなればいいのに"と、
そんな希望を持っていたのに。
美依はどんなに悩んだ事だろう。
腹に子が出来て……
どんなに不安に思った事だろう。
俺はそれに気づけなかった。
きっと政宗が、あいつが。
美依を癒したんだ。
だから───………
美依は政宗を選んだんだ。
(まだ、間に合うか……?!)
俺は天主から駆け出す。
さっきまで二人が俺を探していたなら……
奥州に向かったとしても、まだそこまで遠くには行っていないはずだ。
申し訳ありません、信長様。
俺自ら志願して、見合いをすると。
大名の娘を娶ると決めたのに。
信長様の大望のためなら……
この身はどうなっても構わないと思っていたのに。
でも俺は思うんだ。
俺の望みは信長様が作る世を見る事で。
その為には身を粉にしても構わないけど…
この命一つだけは、
別のやつに捧げさせてください。
美依、
美依……!
まだ間に合うか、間に合ってくれ。
足を動かしながら、切れそうな思いだった。
それでも……
美依が抱えた痛みに比べたら、何倍も軽い。