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〖イケメン戦国〗翡翠色の向日葵《豊臣秀吉短編集》

第7章 蝶々結びの秘め事 / 秀吉END






「秀吉、こんな所で何をしている?」




不意に声がかかり、俺はそちらの方に振り返った。
すると、廊下の奥から見慣れた白銀頭が歩いてくるのが解り……

俺はそいつに一瞥をくれると……
また天井を仰いで、ふうっと息を吐いた。




「光秀…別になんでもねぇ。お前こそなんだ、こんな遅くに」

「俺は今公務の帰りだ。それよりも秀吉」

「なんだよ」

「例の大名の御息女だが、明日安土に来るらしい。たっぷり饗(もてな)してやれ」

「……そうか、解った」




こちらももう、時間切れか。
結局…美依を振り向かせる事は出来なかったな。

……俺が完全に失態を冒したのが原因だが

思わず、嘲笑が漏れた。
こんな『賭け』、はなから無謀だった。
こんな事で、美依を射止めるなんて…
そんな事、最初から無理だったのだ。

俺が笑みを浮かべ、廊下から見える雨空を眺めていると……

何故か、光秀が隣に座ってきて。
なんだか神妙な声で、言葉を紡いできた。




「……お前が織田軍の犠牲になる事はないだろう」

「え……?」

「確かにあの大名の娘と婚姻関係を結べば、織田の勢力はさらに強いものになる。それが天下統一の近道になる事も重々理解はしているが」

「……」

「信長様はそれをお前に強いる事はしていない。お前が自ら志願したから…見合いなどと言う話になったのだろう?」




(光秀……)

顔を見てみれば、その琥珀色の瞳が揺れているのが解った。
光秀が感情を出すのは珍しい。
俺を…心配しているのかもしれないと。

それを思ったら、少し心が穏やかになった。

光秀の言う事は最もだが……
俺の命は、信長様の為にある。
あの方が天下布武を成すために。
俺が踏み台にならなくて、どうすると言うのだ。




「信長様の力になれるなら、俺の人生なんてどうでもいいんだ」

「秀吉……」

「俺自身に価値はない。だから…いくらでもその身を犠牲に出来る。それをした所で、困る奴も居ないしな」

「……美依はどうする」

「え……?」

「自覚が無い訳ではないだろう?お前は顔に出やすい、今どのような顔をしてるか、教えてやろうか」




……どうやら、光秀には隠せないらしい。
それでも…どうする事など、出来はしない。







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