第2章 世界で一番お姫様 / ◆
「わぁ〜…すごくおいしそう……!」
机の上にずらっと並んだ甘味に、美依が瞳をきらきらさせて感嘆のため息を漏らす。
俺はそんな美依の姿を見て……
ああ可愛いなぁと、思わず口元が緩んだ。
まず、美依が俺に言ったのは『思う存分、甘いものが食べたい』という、なんとも可愛らしい願い事だった。
美依は甘いものが大好きだし。
甘味で少しでも美依が笑うなら、それが一番いい。
だから俺は美依が選んだ甘味を、全て注文した。
黒蜜がけの白玉あんみつ。
わらび餅に、旬の果物。
それからみたらし団子に、大福。
とりどりに並んだ甘味達は甘い匂いを漂わせ……
美依がそれを見ながら嬉しそうなので、思わずこっちまで和んだ。
(美依は、今日一日お姫様だからな)
俺は白玉あんみつの椀を手に取ると、杓子を使って白玉を掬う。
そして……
それを美依の口元へ持って行った。
「ほら、口を開けろ」
「えっ……」
「食べさせてやる、ほらあーん」
「そ、そんな事お願いしてないっ……!」
「一日お姫様なんだろ?なら、こうするのは当然だよ」
俺がそう言うと、美依は頬を染めながら困ったように俺を見つめ……
やがて小さな口を開き、白玉を頬張った。
でも、怒ったように口をもぐもぐさせていたのは一瞬で。
すぐさま目を見開き、また瞳を輝かせた。
「……おいしいっ!白玉もちもち…餡子も丁度いい甘さだし」
「良かったな、ほら…もっと食え」
俺は次々に美依の口元に甘味を運ぶ。
その度に美依は嬉しそうに笑顔になって……
それを見ているだけで、しばらく避けられていた寂しさが埋まっていく気がした。
(可愛いな、本当に…参るくらいに)
光秀に嫉妬したのも、美依が可愛い笑顔を、あいつに向けていたのが気に入らなかったのだと。
子供っぽい独占欲が暴走した結果が……
路地裏での出来事だったのだと、そう思う。
駄目なんだ、美依の事になると。
体裁とか見せかけとか、そんなものは剥がれてしまい……
ただ美依を想う、一人の男の姿になってしまうから。