第6章 蝶々結びの秘め事《共通ルート》/ ♥
「おい、美依…どうした?」
その時だった。
立ち止まって俯いていた私に、誰かが声を掛けてきた。
私はハッとなって顔を上げる。
すると、私の目の前には見慣れた人影があって。
その人は首を傾げながら、青い隻眼で私を見下ろしていた。
「政宗……」
「具合でも悪いのか、大丈夫か?」
「え、大丈夫だよ!ちょっと考え事してただけ」
私はにこっと笑い、顔の前で手を振る。
そして、努めて明るく振る舞った。
危ない、政宗に勘づかれたら困る。
変に鋭いからな、政宗は。
そう思って笑顔を作っていると、政宗はしばらく不思議そうに私を見ていたけれど……
やがて、壁に背中を預けるように寄りかかり、私の頭をくしゃりと撫でてきた。
「大丈夫ならいいが。なぁ…ちょっと話があるんだが、いいか?」
「うん、いいよ」
(改まって、どうしたんだろ?)
政宗がこんな風に話を切り出すなんて珍しいな。
何かあったかな?
疑問に思いながらも政宗の言葉を待っていると、政宗は口元に笑みを浮かべながら私を見つめ……
そして、穏やかな口調で話してきた。
「実は…俺、奥州に帰る事にしたんだ」
「えっ」
「顕如の件も一段落ついたし、安土に留まる理由も無くなったしな…国に戻るにはいい頃合だろ」
政宗の話は衝撃的だった。
言われてみれば、安土に政宗や家康が集まってる状態の方が不思議なのであって。
みんなそれぞれに自分の領地がある。
そこに帰っていくのは自然の流れかもしれない。
でも……
「そっ…かぁ、寂しくなるなぁ……」
自然とそんな言葉が漏れていた。
みんなでわいわいと、賑やかな状況が好きだったから。
政宗が奥州に帰ったら、お城が静かになっちゃうな。
そんな風に思っていると……
政宗が私の頬に手を当て、顔を覗き込んできた。
「俺がいなくなると寂しいか?」
「……うん」
「なら、一緒に来いよ」
「え……?」
目を見開く私に、政宗が言う。
とても優しい声色で。
「お前を奥州に連れて行きたい。俺と一緒に来いよ、美依」