第2章 世界で一番お姫様 / ◆
────美依と恋仲になって
色んな苦難も乗り越えてきた。
色んな感情も分け合ってきた。
あいつがいなかったら……
俺は未だに自分の価値になんて気づけなかっただろう。
でも、美依と居ると自分がおかしい。
格好悪い姿ばかり見せてしまう。
嫉妬するような子供っぽい姿だったり、馬鹿みたいに欲情して、歯止めが利かなかったり。
俺が培ってきた『大人の余裕』は……
一体どこに消えてしまったんだろうな?
俺は広間を出た所から見える青空を見上げ、小さく息を吐いた。
息が白い。
でももうすぐ花も芽吹く時。
あいつの笑顔みたいな、陽だまりが出来る季節になるなぁと……
やっぱり美依から頭が離れないのだった。
*****
(政宗が言ってたのは、この茶屋か?)
それから数日後の、晴れた日。
俺は政宗に言われた通りの刻、言われた通りの場所に足を運んでいた。
政宗が俺の御殿に来たのは、昨夜だ。
いきなり押しかけてきて…明日の昼、この茶屋へ行けと。
この茶屋は最近美味いと評判の茶屋で……
俺をここに呼んだのは、どうやら美依と会わせるためらしい。
仲直りするきっかけを作ってくれたのだろうか。
だが、一つ引っかかるのは……
政宗とのこんな会話だった。
『秀吉、お前美依の為なら何でも出来るな?』
『ああ、まぁな』
『なら、明日は何を言われても素直に従えよ?』
『……なんだ、それ?』
『明日になれば解る』
────あれはどーゆー意味なんだ?
何やら意地悪く笑っていた目が気になる。
政宗は何を企んだのだろう。
そもそも、美依はあんなに怒っていて……
素直にここに来るのだろうか?
(まぁ、ぐでぐで考えていても仕方ねぇ)
俺は暖簾の前で一呼吸つくと、意を決して中に足を踏み入れた。
何だかとても混雑している店内。
ほぼ満席の賑わう中で……
店の一番奥の席に、見慣れた小さな後ろ姿を見つけた。
どんなに人が居たって解る。
だってそいつがそこに居るだけで……
そこだけが鮮やかに色づいて見えるのだから。