第2章 世界で一番お姫様 / ◆
「秀吉、お前美依に何したんだ?」
その日の軍議終わり。
広間を出ようとしていた俺を、政宗が後ろから呼び止めた。
振り返って顔を見てみれば、何やら怪訝そうな表情をしている。
その言葉から察するに、美依の今の状態を心配してだろう。
思い当たる事があるだけに……
俺は小さくため息を付き、政宗と向かい合った。
「別に何もしてないぞ」
「嘘つけ。美依のやつ、さっき会ったらぶんむくれてたぞ?軍議には来ないし、何かあったんだろ」
「……」
「どうせ喧嘩でもしたんだろ、お前ら」
図星を突かれ、ぐうの音も出ない。
俺は思わず政宗から視線を泳がせ……
またくぐもった息を漏らした。
そう…美依とは今、喧嘩真っ最中である。
理由は簡単。
俺が美依を怒らせたからだ。
何で美依が怒ったかと言うと……
俺が光秀に嫉妬して、無理やり身体を奪おうとしたから。
美依が光秀から何かを受け取り、嬉しそうにしているのを見て、ついイラッときて。
美依に聞いても『何でもないよ』としか言わないから……
つい嫉妬は膨れ上がり、路地裏に連れ込んで襲ってしまったのだ。
(……まぁ、未遂に終わったけどな)
美依に激しく抵抗され、泣かれてしまい、俺はそこで頭が冷えたけれど。
美依は…まぁ怒るよなぁ。
人が来るかもしれない路地裏で、着物をはだけさせられた上に、見える場所に口づけの痕まで付けられたんだから。
それからと言うもの、美依は口も利いてくれない。
俺を避けているし、偶然会っても、拗ねたような怒ったような顔をして行ってしまう。
……完全に俺の失態だ。
すると、政宗ははぁっと大きくため息をつき。
俺の両肩に手を乗せると、慰めるようにぽんぽんと叩いた。
「仕方ねぇ、俺がひと肌脱いでやる」
「……何する気だ、お前」
「俺に任せろ、悪いようにはしねぇよ」
そして、にやりと不敵に笑った政宗。
色々楽しんでいるように見えるのは、俺の気のせいか?
まぁ、美依と仲直り出来るなら、何でも良いけれど。
俺は大して期待もせず……
政宗に『じゃあ任せる』とだけ返事を返したのだった。