第4章 欠けた月に浮かぶ蜜影 / ◆
「はぁっ…はぁ……っ」
二度目の絶頂は突き抜けるように早かった。
どろり…と溢れる、熱い白濁。
それはべっとりと桃色の着物を汚し。
そこでようやく正気になったものの……
二度ほど駆け抜けた躰は、すでに気怠さも最高潮で、俺は荒れる息を整えながら、初めての謝罪を口にした。
「ごめん、美依……」
こうして、自慰の材料にした事。
大切な着物を汚してしまった事。
何より───………
お前を想ってしまって、ごめん。
ふわりと着物を抱き締め、顔を埋める。
優しい匂いが、今は苦しくて切ない。
口から零れた言葉は、お前には届かないから。
切れそうに痛い、心が。
こんなにも……痛い。
俺は目頭が熱くなってきたのを感じ、それでもそれを堪えるように、ぎゅっと目を閉じた。
その、刹那だった。
「秀吉さん……っ!」
(────え?)
突然名前を呼ばれたかと思ったら、横たわる身体に何か温かいものが覆いかぶさってきた。
いきなりの事にびっくりし、俺は上半身を起こす。
さすれば、今度は首にふわりと纏わりついてきて……
俺は纏わりついてきた、その『温かいもの』に腕を回しながら、掠れる声で名前を呼んだ。
「美依……っ」
それは、紛れもなく美依だった。
でも、何故美依がここに居るんだ?
今は信長様の夜伽のお相手をしている最中ではないのか。
頭の中に、疑問符ばかりが浮かんでいると……
美依は俺の首元から顔を上げ、まるで睨むような顔つきで俺を見てくる。
その瞳は真っ赤で……
まるで泣いた後のように、潤んでいた。
「秀吉さんの、ばかっ…」
「え……?」
「秀吉さんが私を送り出したんでしょう?なのに、なのにっ…ここで、一人で、何してるの……?!」
「あ……」
そう言われ、カッと頭に血が上る。
その美依の言葉。
それは、俺が自慰していた事を解っていると……
それを示しているに相違なかった。
それに改めて気がついてみれば。
そこには白濁に塗れた着物が落ち、自分の格好も…自慰していた時のままで、袴はだらしなく緩んだままだった。