第4章 欠けた月に浮かぶ蜜影 / ◆
「美依───………」
こうして、狂い咲いた夜は幕を開ける。
愛しい女を想いながら、
独りみっともなく己を慰める夜が。
改めて着物を抱く腕に力を込めれば……
持ち主の居ないその布が、俺の寂しさを紛らわそうと、熱を帯びてる気がした。
愛してるよ、美依。
お前を、お前だけをひたすらに。
口から紡がれる愛の囁きは───………
誰に届くことも無く、夜の空気に溶けて消えたのだった。
*****
(躰、だりぃ……)
俺は自分の精でべとべとの手もそのままに、躰を横に倒して畳に横たわった。
反対の手には、美依の着物。
それを顔に近づけ……
また、その馨しい匂いを肺に入れる。
すーっと透き通るように入ってきた甘い匂い。
それは熱を持て余してる自分には、煽る材料でしかない。
達した事で、柔らかくなった己の欲望が……
また見る見る硬くなり、芯を持ったのが解った。
「ん…っはぁっ……」
俺はまたその汚れた手で熱を扱く。
白濁が手についているから、ぬるぬると滑りよく竿が擦られ……
己自身で与える快楽に、また溺れていく。
着物からは絶え間なく『材料』を補給して。
その甘ったるい匂いに酔い、欲情して、再度躰は頂点を目指して駆け上がり始めた。
────本当に馬鹿じゃないのか、俺
ここは自室ではなく、美依の部屋だ。
もし美依が帰ってきたり、誰かに見られたりしたら、どうするのだろう?
こんな情欲に溺れた、みっともない姿。
見られたりしたら、自尊心が傷つくだけでなく、信頼すら失ってしまうかもしれない。
それでも、もう止まらないのだ。
あいつが欲しすぎて。
堪えきれない渇望が、俺をえげつない色魔に変えていく。
あいつは今、他の男に抱かれているのに。
俺に望みなんてないのに──……
この手で抱く瞬間を夢見るなんて。
『────秀吉さん』
もう、あいつが『兄』として慕ってくれるだけじゃ足りない。
俺はお前が好きだから。
お前も、同じ気持ちでいなければ。
同じ『好き』でなければ───………
俺はもう、
満たされたりはしないから。