第4章 欠けた月に浮かぶ蜜影 / ◆
「美依……」
思わず名前を呼び、それを顔に近づける。
すると、着物の襟元から強く美依の匂いが香って、鼻に抜けた。
つけてる香の匂いなのか。
まるで花の蜜のような、そんな香りがする。
それは、俺を惹き付ける匂いで……
まるでこの腕の中に、美依がいるような錯覚まで覚えた。
さすれば、無条件に身体が火照り始め、ゾクッと腰の辺りが甘く疼く。
それを感じてしまったら……
思考は脆くも簡単に崩れ去った。
────少しくらい、
お前を感じても構わないだろうか?
せめて、頭の中だけでも。
お前を甘やかして、とろとろに溶かして。
そのくらいは許されるだろう?
誰にも迷惑はかけないから、
この火照った身体を慰めるくらい。
俺にだって…権利はある筈だ。
「はぁ……っ」
壁に背を付き、胡座を搔いて。
そして、急いで袴の紐を緩めていく。
中ではもう、俺の熱が首を持ち上げ始めていて。
それを包む布から解放してやれば……
見る間に姿を現し、雄々しく勃ち上がった。
俺はすぐに手を伸ばし、その昂りに触れる。
さすれば、直接的な刺激で腰がビクリと跳ね上がった。
『────秀吉さん』
頭に思い描くのは、愛しいあいつ。
太陽みたいに眩しい笑顔と……
細くも女らしい丸みを帯びた身体。
あいつは、閨で乱れたらどうなるんだろう。
きっと、その白い肌を朱に染めて。
真っ赤に潤んだ兎みたいな瞳で見つめてきて。
恥ずかしながらも晒すだろうか。
それとも、可愛く隠すだろうか?
全部…全部、俺が暴いてやるよ。
────お前のいやらしい、全てを
「……っ」
頭で想像したら、途端に屹立が硬度を増した。
頭で思い描くだけで、こうだ。
きっと、実物を見たら……
脳みそが沸騰するくらい高ぶるのだろう。
でも、悲しいかな。
それを見られるのは俺じゃない。
俺以外の男、俺の主君。
きっと今頃、その素肌を晒して……
二人、気持ち良くなっているに違いない。
(こんなに色恋が辛いのは初めてだ)
ぼんやり目の前の障子に視線を移せば、外から月の光が障子越しに差し込み……
鋭角の月の形がはっきりと。
目の前の畳に影を落としていた。