第3章 世界で一番お姫様-始まり-/ ♥
「いやぁぁっっ………!!」
────ドンッ!!
次の瞬間、私は渾身の力を振り絞って、秀吉さんを突き飛ばした。
秀吉さんは倒れはしなかった。
でも後ろによろけて、私の身体からは手が離れて。
私はその隙に着物の前を掻き合せ……
涙を拭うこともせず、秀吉さんを睨みつけた。
「……っ」
すると、秀吉さんは目を見開き、絶句したように私を見た。
こんな事をしたのは秀吉さん自身なのに。
まるでその事に驚いているような表情で。
そんな顔を見てしまったら……
もう、堪らなかった。
「秀吉さんなんか、大っ嫌いっ……!」
「あっ、美依っ……!」
私は秀吉さんを置いて、その場から駆け出した。
もう、顔も見たくなかった。
流れる涙もそのままに……
私は一目散に走り去る。
秀吉さんは追っても来なかった。
いや、正確には一回追ってきたけど……
それを振り払って逃げたんだ。
秀吉さんを怖いなんて思ったの
始めてだったなぁ………
そして、完璧に私達は拗れ。
政宗から『一日お姫様券』を預かるまで……
私は秀吉さんを避けて避けて、避けまくった。
秀吉さんの行動が許せなくて。
路地裏に連れ込んで、あんな事をするなんて。
でもね。
秀吉さんが怒った理由、ちゃんと解っていたよ?
私が変に隠し立てをしたから。
やましい事など一つもないのに。
秀吉さんを喜ばせたいという理由があったとしても、あの時はああするべきではなかった。
本当の事を話したって……
秀吉さんはちゃんと喜んでくれるのに。
(大嫌いなんて、言ってごめん)
心にも思ってない事を言ってしまった。
こんなに愛せる人は、他には居ないのに。
それでも、拗らせてしまった私達を修復しようと、動いてくれたのは秀吉さんだった。
それで、私は思い知るの。
私が秀吉さんにどれほど愛されてるか。
どれほど大切にされているか。
いつも私を見ていてくれた事。
私を唯一の存在だと思ってくれている事。
やっぱり…敵わないなぁって。
秀吉さんは───………
私を世界で一番お姫様にしてくれるから