第3章 世界で一番お姫様-始まり-/ ♥
「美依…光秀から何を受け取ったんだ?」
「え?」
「さっき、何か受け取ってただろ?」
「あ…ええと、それは……」
秀吉さんに言われ、今度は私が口ごもる。
光秀さんから受け取ったのは、秀吉さんの誕生日に渡そうと思っていた、煙草の葉だ。
なんでも、精神的に安らぐ効果のある煙草があるらしいと聞いて……
秀吉さんは毎日忙しそうだから、一服する時くらい、ほっとしてほしいなぁなんて。
私はそう思い、情報通な光秀さんに相談したら、その手の商人の方に話を付けてくれたのだった。
(でも誕生日の贈り物だから、内緒にしたい)
せっかくなら秀吉さんに喜んでほしいよ。
私はそう安直に思い、なるべく自然に笑みを作ると、さり気なく嘘をついた。
「何でもないよ、秀吉さん」
「何でもない、だと?」
「うん、秀吉さんが気にする事じゃないよ」
「……」
「秀吉さん……?」
すると、秀吉さんは黙ったまま鋭く目を細めた。
そして──……
ぽつりと、聞こえるか聞こえないかくらいの、低く小さな声のトーンで言った。
「何でもなくて、あんなに可愛い顔…っ」
(え……?)
小さくてもハッキリ耳に届き、私は思わず目を見開いた。
秀吉さんは何を言っているのだろう。
『あんなに可愛い顔』って…何?
なんでそんなに、恐い顔をするの?
私が首を傾げると、次の瞬間。
秀吉さんはいきなり私の手を引っ張り、大通りから一本外れた路地裏に連れ込んだ。
そして、私を壁際に追い込む。
壁に手を付いて、私の身体を挟むような体勢を取り……
鋭い眼差しで、私を睨むように見据えた。
「もう一度聞く。何を受け取ったんだ?」
「秀吉、さ…」
「答えられない悪い子なのか、お前は」
「え、えっと…」
何これ、さっきより怒ってる?!
私は若干パニックになり、秀吉さんから視線を外した。
なんでこんなに怒ってるんだろう。
私は何かまずいことを言っただろうか?
そもそも、なんでそんなに光秀さんから受け取ったものを気にするのか解らない。
「だから、何でもないったら…!」
それでも私は秀吉さんに、それを隠した。
言ったら、きっと喜びも半減してしまうから。
誕生日に秀吉さんに喜んでもらいたい、その一心で。