第3章 世界で一番お姫様-始まり-/ ♥
「美依、これで良かったのか?」
「わぁ…ありがとうございます、光秀さん!」
まだ芽吹くには早い、冬のある日。
私はお城の廊下で、光秀さんに呼び止められた。
そして、手渡された小さな紙袋。
それは、私が光秀さんに頼んでいた、秀吉さんへの誕生日プレゼントだ。
袋を開け、中身を確かめて……
そして、それだと確信すると、私はほっと安心して思わず表情が緩んだ。
「商人さんに掛け合ってくださって、本当にありがとうございます。秀吉さん、きっと喜びます」
「俺は秀吉のためにやったのではない。お前の喜ぶ顔が見たかった、それだけだ」
「光秀さん……」
「まぁ、結局は秀吉が喜ぶんだがな。お前からはたっぷり礼をもらわなくてはな、美依?」
「うっ…お礼は必ずしますから!」
(でも、何だかんだ優しいよね、光秀さん)
私が何気なく相談した事を覚えていてくれて…
そして、そちらの商人の方に話を付けてくれたのだ。
普段は意地悪な事ばかりしていても、それは心底意地悪という訳ではなく、優しくてすごく頼りになる人。
今回の事も、感謝だなぁ。
嬉しくて、また笑って光秀さんを見ると……
光秀さんもなんだか柔らかい笑みを浮かべ、優しく私の頭をぽんと撫でた。
「……少しばかり羨ましいな、秀吉が」
「え?」
「その愛らしい笑顔は、秀吉のものだろう?」
「羨ましいって……」
「おい、光秀。気安くこいつに触るな」
(────えっ?)
その時、ぐいっと身体が後ろに引かれ。
次の瞬間には、私は誰かの腕の中にすっぽりと収まっていた。
いきなりの事にびっくりして、上を見上げてみれば……
すぐ側に秀吉さんの顔があって、榛色の瞳が不機嫌そうに光秀さんを睨んでいた。
「秀吉さん……っ」
「おお、怖い。少し頭を撫でただけだろう」
「……それだけじゃねぇ」
「ふっ…嫉妬か、秀吉?」
「……っ」
光秀さんの言葉に、秀吉さんが口ごもる。
嫉妬…って、秀吉さんがまさか。
秀吉さんが光秀さんにヤキモチを妬いたと言うの?
それを思ったら、一気に顔が熱くなった。
赤面してしまったのが解り、思わず俯くと……
秀吉さんが私を一回腕の中から解放し、今度はやや強引に私の手を引いた。