第10章 【誕生記念】滄海と花明かりの煌 / ◆&♥
(秀吉さんの匂いだ……)
秀吉さんの香り、私が安心する大好きな匂い。
それに腕の温かくて……もっと涙が出そうになってしまう。
それでも厚い胸板に顔を埋めると、秀吉さんは私を包み込みながら、穏やかな声で理由を話してくれた。
「お前、俺の誕生日を祝いたいって随分前から色々計画してくれてただろ?」
「う、うん……」
「今日だって、必死に頑張って俺を案内する姿を見てた。ああ、俺の為に一生懸命になってくれてるんだって思ったら……すごく嬉しくて堪らない気持ちになった」
「秀吉さん……」
秀吉さんの言葉ひとつひとつが胸に沁みる。
好きな人のために色々するのは当たり前の事なのに…秀吉さんは嬉しいって思ってくれたんだ。
秀吉さんを見上げると、その顔の後ろには桜しかなくて。
薄桃色の背景に、秀吉さんがすごく映える。
目に映る愛しい恋人は、なんだか熱っぽく私を見つめながら言葉を続けた。
「こうやって海や桜を綺麗だと思ったり、愛する女と誕生日に出かけて祝ってもらったり……お前に出会えなかったら経験出来なかった事ばかりだ。だから、お前にはいつも感謝してる」
「っ……」
「ありがとな、俺に幸せをくれて。お前のおかげで俺はいつも幸せでいられる、それが…嬉しいよ」
(ほんと、敵わないなぁ……)
幸せをもらってるのは、こっちなのに。
秀吉さんが私を守ってくれて、優しさをくれて……
私だって秀吉さんと出会えなかったら、こんなに焦がれる気持ちを知らなかった。
大好きで大好きで、堪らない気持ち。
まるでずっと恋してるみたいな感情は、秀吉さんにしか抱けない想いなんだよ?
「そのままそっくり言葉を返すね。私も秀吉さんに感謝してる、いっぱい幸せもらってるよ」
「美依……」
「生まれてきてくれてありがとう、私と出会ってくれて……ありがとう。お誕生日おめでとう、秀吉さん」
「っ……」
少し早いお祝いの言葉を贈ったら、秀吉さんはその榛色の瞳を滲ませた。
そのままゆっくり顔が近づいてくる。
自然な流れで目を閉じたら、唇に柔らかい温もりが落ちた。
ゆっくり甘く溶かすように、口づけは深くなって……
溢れる愛しい感情を、私は必死に唇から伝えた。