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〖イケメン戦国〗翡翠色の向日葵《豊臣秀吉短編集》

第10章 【誕生記念】滄海と花明かりの煌 / ◆&♥




「うん、いいよ」

「よし、決まりだな。行ってみよう」



そのまま私達は並んで馬を走らせ、潮騒の音のする方に進んでいった。
真っ暗な中、野原を過ぎて林に入って。
気持ちは落ち込んでいるけど、秀吉さんにこれ以上気を遣わせたくないし。
そう思いながら、馬を操る。
時折秀吉さんの方を見たら、秀吉さんはとても穏やかで優しい表情をしていた。


(私のせいでこんな事になったのに、怒ってないのかな)


秀吉さんが私に怒るなんて滅多にないけれど、それでも少しは腹を立てていいのに。
秀吉さんは……大人なんだな。
頼りにならない子供っぽい自分と比較したら、また少し気分が萎えた。

そんな中でも、だんだんと潮騒の音がはっきり聞こえ、もう海が間近なのを認識して。
そのまま足元に気をつけながら進んで行った先で、一気に視界が開けた。




​─────瞬間、目の前の光景に
私は鬱々とした気分が驚きに変わったのだ




「わぁっ………!」

「これは凄いな……」


感嘆の声を上げる私の横で、秀吉さんがぽつりと呟く。
私は目前に広がった絶景に感動して、すっかり心を奪われてしまった。

そこには、広々とした海が広がっていた。
濃紺の夜空には乳白色の星々が無数に瞬き、その下には月明かりを反射する瑠璃色の海。
そして……海岸には一本の桜の木があって。
薄紅色の花が爛漫に咲き誇る枝垂れ桜が、月の光を纏って輝いているように見えた。

この季節のこの時間帯にしか見られないだろうそれは、とても幻想的で、まるで一枚の絵画のようで。
私はすっかり興奮して、思わずはしゃいだような声で秀吉さんに言った。



「秀吉さん、桜の木の下まで行ってみようよ!」

「そうだな、そうするか」



急ぐ気持ちを抑えながら馬を歩かせ、桜の木の下に移動してみる。
そこで数刻ぶりに馬を降りると、私は下から桜の木を仰いだ。
間近で見ると、花が一輪一輪本当に光っているように見えて……
きっとこういうのが『花明かり』と言うのだろう。
桜が満開だから、夜でも明るく見えるんだ。

少し海風が吹いては、はらり…と花びらが散る。
そんな風景も雅で、なんだか夢心地になっていると……
隣で秀吉さんがくすっと苦笑し、枝垂れた桜に触れながら言葉を紡いだ。





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