第2章 世界で一番お姫様 / ◆
「私だって、どうしようもなく…秀吉さんが好きだよ」
すると、美依が顔を上げて俺を見つめてきた。
それは何かを期待しているような……
渇望しているような、そんな愛らしい顔。
そして、その桜色の唇で紡ぐ。
俺に…まるで誘うような響きの言葉を。
「ねえ、お姫様券…使っていい?最後のお願い」
「ああ、勿論だ」
「じゃあ…秀吉さんに思いっきり愛されたい」
「美依……」
「誰もいない場所で…秀吉さんしかいない世界で」
そんなの、当たり前だろ?
返事の代わりに唇を塞げば、美依は崩れるように俺にもたれかかってきた。
僅かな隙間から舌を絡め取って……
吐息まで奪うように、深く深く口づけていく。
美依、お前に言おうと思ったが……
お前はそんなものを使わなくたって、
毎日、いつでも世界で一番お姫様だぞ?
少なくとも、俺にとっては。
可愛くて、目が離せなくて、
何でもしてやりたい、
出来れば泣き顔なんて見たくない。
だって、俺は──……
どうしようもなく惚れちまってるから。
お前に、お前だけに、
最上の愛を注いでやりたいと、切に願う。
「お姫様、参りましょうか」
「秀吉、さん……」
「誰もいない、二人だけの世界…だろ?」
口づけで顔の蕩けたお姫様を抱き上げ、俺はその目元にまた軽く口づけを落とした。
こんな可愛い顔、誰にも見せられない。
いや…誰にも見せたくない。
美依は俺だけのお姫様だから。
俺だけが知っていれば…それでいい。
ゆっくりゆっくり足を進めながら『二人だけになれる場所』を、俺は頭の中で考えていた。
御殿は家臣や女中達がいるし、城の部屋だって…『誰もいない』と言うには程遠い気がした。
そして、思い当たった場所。
だったら……
『あそこ』しかないな。
泣かせてしまった分、
たっぷり、甘やかしてやらなければ。
落ちていく夕陽が、二人を染める。
これから行く場所は、まさに二人だけの世界。
俺は腕に抱く小さな温もりを愛しく思いながら、これから訪れる甘い夜に思いを馳せた。
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