第2章 世界で一番お姫様 / ◆
「ごめん、秀吉さん……」
「え……?」
「私、ちゃんと解ってる。秀吉さんが路地裏であんな事した理由。私が光秀さんから受け取ったものを、隠したからだよね…?」
「あー…まぁ、な」
「本当はまだ教えたくなかったんだけど…」
すると美依は一回離れると、手に持っていた籠の手提げの中から何かを取り出した。
そして、俺に手渡してくる。
それは小さな紙の小袋で、やたらと軽く…
俺が若干首を傾げると、美依はふっと小さく笑って見せた。
「それ、珍しい煙草の葉なの。私が光秀さんに頼んだもので…来月の秀吉さんの誕生日にあげる予定だったんだ」
「えっ……」
「なんかね、精神的に安らぐ効果があるらしくって、私が欲しがってたら光秀さんが商人の方に掛け合ってくれて…ほら、秀吉さんは毎日忙しいから、少しでも安らいでほしいなって」
「美依……」
「でもそれが喧嘩の種になっちゃうなら、隠したりしなきゃ良かった。本当に…ごめんなさい」
(だから、あの時あんなに嬉しそうだったのか?)
光秀から受け取っていた時の美依。
本当に嬉しそうに可愛く微笑んで。
でもそれは、光秀に向けていた訳ではなく…
この煙草の葉が手に入って嬉しかったから。
それは、俺を思ってしてくれたことで。
美依が、俺を想って。
美依、
────俺は、馬鹿だ
「わっ……!」
俺が美依を力強く掻き抱くと、美依はびっくりしたように声を上げた。
ふわんと美依特有の甘い匂いが香る。
それは俺の心の柔らかい部分を刺激して。
移る温もりも、なにもかも──……
美依の全てが愛しくて愛しくて、全身が声を上げそうになっている。
「ほんっとに俺…どうしようもねぇ」
「秀吉さん……」
「お前が光秀に笑いかけてるの見たら…嫉妬せずにはいられなくて。それでお前をあんなに泣かせちまって…本当に悪かった。でも、お前の事が…好きなんだ、どうしようもならないくらい」
まるで初恋のような、赤裸々な感情。
いや…この『好き』は初めてみたいなもんだ。
えげつなくて、みっともなくて、でも、
深紅に染まる、真っ直ぐな気持ち。