第9章 【誕生記念】妹なんかじゃいられない! / ◆&♥
「秀吉さん、おかえりなさい」
「……ああ、ただいま」
美依は俺を部屋の前で出迎え、いつも通りに言葉を紡ぐ。
俺も精一杯『普通』に答えたが……
内心は掻き乱されて、鼓動が駆け足になっていくのを感じた。
美依は珍しく化粧をしていた。
いつもは紅のひとつも差さないのに……
今日は頬がほのかに朱を帯び、艶やかな赤い紅を差していて、いつもとは違う色香を漂わせている。
変に色っぽくて、落ち着かねぇな。
そんな事を思っていれば、美依は俺の反応を伺うようにじっと見つめてきて。
その視線にやられながらも、俺は動揺を隠すように、努めて穏やかな口調で言った。
「珍しいな、化粧をしてるなんて」
「変、かな」
「変じゃないよ、可愛いし綺麗だ」
「そっか、ありがとう…ねぇ、秀吉さん」
すると、美依は甘えたように名前を呼んで、俺にふわりと抱きついてきた。
その刹那、甘ったるい匂いが鼻をつく。
美依から香るそれは、いつもの美依の匂いではない。
美依も甘い匂いはするけれど、それよりもっと強烈で、花の蜜のような熟した果実のような。
そんなどこか官能的な匂いに、思わず腰がぞわりと疼いた。
美依は抱きついたまま、俺を下から見上げ、まるで口づけを強請るように唇を尖らせる。
「美依……?」
「口づけ、して……?」
「……っ、急にどうしたんだよ」
「口づけしたいの、秀吉さんと」
(なんか、やたらと積極的だな……)
美依から口づけを強請られたのなんて初めてだ。
いつも俺から『したい』と言っているし、それを言うと美依は大体恥ずかしがるから。
でも、こうやって積極的なのも可愛いな。
求めてばかりじゃなく、求められるのもいい。
俺は美依の細い腰を片腕で抱き寄せると、もう片手を頬に当て、そのまま唇を塞いだ。
さすればくらくらと眩暈を起こすほど強烈に紅の味がして、甘い毒に侵されたような錯覚を覚える。
そして、柔らかな感触が心に熱を灯して……
俺は高ぶりだした熱情を感じながら、次第に口づけを深めていく。