第1章 徴集
いくつかの角を曲がり、静脈認証やら声紋認証やらでしか開かない鍵のかかったドアを何度も潜り、結構な距離を歩かされてたどり着いたのは窓の無い小さな部屋。その中央に5振りの日本刀が鎮座していた。
「この中から一振り選んでください。それが貴女の最初の刀であり、最期の刀になります」
最初の刀というのはわかるが最後の刀というのはどういうことなのか。首を傾げていると、男は刀の横へと移動して一振りずつ説明を始めた。
「こちらは陸奥守吉行、坂本龍馬の佩刀でした。そしてこちらは蜂須賀虎徹、蜂須賀家伝来の虎徹の真作です。こちらは山姥切国広、写として作られながら重要文化財となった傑作です。こちらは歌仙兼定、元の持ち主が36人もの家臣を斬ったため歌仙と名付けられました。最後にこちらは加州清光、沖田総司の佩刀で池田屋事件で折れたとも言われています」
「…あの、重要文化財とか真作?とか、私が使っても大丈夫なんですか?それに折れたって…」
なにやら説明の中に不穏な単語が混ざっていて不安になるので質問してみる。すると男は何でもないような事だと言わんばかりに笑った。
「ああ、大丈夫ですよ。ここにあるものはすべて分霊の依代ですから」
またしてもよくわからない専門用語である。更に首を傾げていると今度は苦笑された。
「わかりやすく言えば分身を宿す為のコピーですよ」
つまり本物ではない、と。折れたはずのものがあるというのも、復元されたのなら説明はつく。それならばもしもの時でも安心だ。…そうだ、念には念を入れて最初の刀は明らかにレプリカだとわかる刀にしよう。うっかり、なんて事があったとしてもレプリカだとわかっていれば多少は気の持ちようも違う。と、なるともう決まったようなものだ。小さく頷いて部屋の中へと足を踏み入れる。迷う事なくとある一振りの前に立った。
「これにします。私の最初の刀」
「…加州清光ですね。では早速顕現してみましょうか。刀を持ってこちらへ」
部屋の奥にあるちょっとしたスペースへ移ると、刀を捧げ持つように言われた。
「刀にエネルギーを注ぎ入れるイメージで語りかけてください、力を貸して欲しい、と」