第1章 徴集
どうして。
どうして。どうして。
どうして。どうして。どうして。
どうして。どうして。どうして。どうして。
どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。
あのひとは殺されたんじゃなかったの?
私から全てを搾取するために。
目の前から、色彩が消えた。
周囲の音がどんどん遠くなる。
手足の爪先から、体温が奪われていく。
存在を、消された?
いないことにされた?
そんなことはない。
あのひとはちゃんといた。
私を好きだと言ってくれた。
どこか自信無さげにはにかみながら、結婚しようと言ってくれた。
一方的に搾取されるだけの私に、寧ろ惜しみなく愛を与えてくれた。
一緒に幸せになるはずだったのに。
どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。
パン、と一拍、柏手が響いた。
目の前の男が打ったらしい。どこかへ行ってしまいそうな意識が、目の前の男の元へと戻ってきた。
「大丈夫ですかね?続けますよ?」
話はまだ終わっていない。寧ろ本題はこれかららしい。表情一つ変えぬまま、男は淡々と続けている。
「そういう訳で貴女には歴史をあるべき姿に戻すために審神者となり戦ってもらいます」
ここで初めて男は軽く微笑んだ。
「尚、貴女には拒否権はありません。このミッションが成功しても、そのまま審神者は続けていただきます」
「そして全ての戦いがおわりましたら貴女の刑が執行されます。理由はどうあれ、貴女が殺人を犯したことは事実ですから」
何という理不尽。だが拒否権はないという。これが私に課せられた贖罪なのか。
「では行きましょうか」
「…一つだけ、質問してもいいですか?」
「なんでしょうか」
「歴史をあるべき姿に戻せば、あのひとは帰ってきますか?」
あのひとを取り戻すためなら。
あのひとが帰ってきてくれるなら。
「もちろん。歴史を守れば彼の存在も守られますから」
それならば、私はたたかえる。
「やります、私。あのひとを取り戻します」
男は更に笑みを浮かべて立ち上がる。看守に向けて頷くと、ドアから外へ出て行った。数分後、私の後ろのドアが開く。そこにはあの男がいた。
「ではこちらへどうぞ。貴女の刀を選びましょう」
この時私は気づいていなかった。男が呟いた小さな小さな一言に。