第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
「いいかお嬢はな、お前らと何ら変わりない鬼舞辻を純粋に憎む人だ。そんなお嬢の血反吐吐くような努力を俺達は知ってるし、お嬢が望むなら鬼殺隊と同盟を組んだっていいと思ってた....今回の事があるまでは。」
朱嘉の静かな言葉はその場にいる隊士全員に届いた。
皆同様に複雑な顔を浮かべているのがいい例だろう。
人間は未知の者に対して酷く臆病になる。
今回の事件だってそれの延長線上に過ぎない。
怯える余りどうにかして優位に立とうとする。
鬼神を怒らせたという点を除けば、至極当たり前の反応だ。
責められるべきは鬼は危険なものという認識を植え付けた、鬼舞辻無惨なのだろう。
ただそれで済ませないのが朱嘉達なのだ。
「お前らが鬼をよく思わないことは分かる。だが、俺達のお嬢はお前らに危害を加えたのか?何か疑われるような事をしたのか?」
言う朱嘉の表情は先程までの荒々しさとは打って変わって、切ないものへと変わった。
「そこの隊士、お前のその傷は本来腕が無くなるような傷だっただろう。何故今まで通り動かせているか分かるか?」
突然指名された隊士はびくりと肩を震わせて立ち上がる。
何故朱嘉が自分の傷の具合を知っているのかはこの際どうでもいいと思う。
泣きそうなのは傷が痛むからではない。
自分が無事だった理由を思い出し理解したからだ。
「ほ、本当はもう千切れてたんだ...お、俺の、腕は。でも、あの子が鬼の子が手当してくれて...不思議な術で怖がる俺を、ずっと励ましてくれた。」
耐えられず泣き出す隊士。