第14章 拾肆ノ型. 遊郭潜入
キメ顔で一目散に走り出した善逸。
たどり着いた部屋は北側の部屋。
乱闘があったのかと疑ってしまうほどに荒れた部屋の真ん中で、傷だらけの禿が1人泣いていた。
「えっ!けんっ!喧嘩!?喧嘩した!?大丈夫!?」
善逸の声にさらに泣き出してしまった禿に、おろおろとしながら傍による。
何とかこの状況の原因を聞き出したい善逸は、根気強く禿に話しかけるが、
ヒタリ。
すぐ後方に聞こえた嫌な音に、汗が吹きでた。
「アンタ、人の部屋で何してんの?」
底冷えするような怒気を含んだ声。
声を掛けられるまで、その気配すら気づかなかった。
こんな事は今まで無かったのに。
(鬼の音だ。今後ろに居るのは鬼だ。人間の"音"じゃない。)
毎日ソレと戦っているのだ、間違えるはずがない。
余りにも急で言葉を発することすら忘れてしまう。
「オイ、耳が聞こえないのかい?」
苛立ったような声に善逸の喉はヒュッと嫌な音を立てた。
善逸を庇おうとした他の禿は花魁の鬼に凄まれへたりこんでしまっている。
まさに最悪の状況。
(今紫苑さんを呼んだらこの子まで巻き込んじゃう。駄目だ、今は...どうにか穏便に俺だけで済ませなきゃ...)
グルグルと思考を全速で回転させる間にも、花魁の鬼は泣き続ける禿を怒鳴りつける。
「ギャアじゃないよ!部屋を片付けな!」
「ごめんなさいごめんなさい!直ぐやります!許してください!」
強い力で引っ張られた耳はミチミチと嫌な音をたて、今にも千切れてしまいそうだ。
その光景に考えるよりも先に善逸の手が動いた。
禿の耳を掴む鬼の手を握りしめ、訝しげな視線を向けるソレを睨みつける。
「何?」
「手、離してください!」
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ドガアッ!!!!!!
一瞬だった。
蹴られたのか殴られたのか、それすら分からない。
気づいた時には吹っ飛ばされていて、
ギリギリでとった受け身もどれほど効果があったのか。
途切れかける意識の中で、善逸の頭の中に声が響く。
【もう少しだ、もう少しだけ耐えろ...俺が行くまで...】
(だ、れだ...)
聞き覚えのない声に戸惑いつつも、そこで善逸の意識は途切れた。