第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
確かに刹那が来てから鬼殺隊の死亡率は劇的に下がった。
癸の隊士ですら、刹那と任務を共にする時は、どんなに危険な任務でも死者が出ない。
ある意味異常だった。
察しの悪い隊士は自分の実力だとうたっていたが、鬼神達の口ぶりからするに違うのだろう。
刹那の補助によるものなのか、あるいはこの鬼神達が関係しているのか分からないが
どちらにしろ刹那のお陰で今ここで生きている者もいる。
それは変えようのない事実。
もし、
もしも本当に刹那のお陰ならば
自分達は命の恩人に対して、一体どんな仕打ちをしただろうか。
悪い噂を流し、
柱のいない場所で罵詈雑言を浴びせ、
好奇の目を向けた。
なんと惨いことを。
集まった過半数の隊士が後悔する。
思い当たる事など多々あった。
だからこそ恐れている。
自分達もあそこにいる今回の事件の犯人達と、なんら変わらないのではないのかと。
ざわめきだした隊士達を他所に朱嘉が深く煙を吐いた。
「俺達鬼神にも...お前達のお館様のように、鬼神を纏める長がいる。それがお嬢、暁天 刹那の父。名は逢魔-オウマ-。」
ポツリポツリと語られる刹那の父の過去。
鬼殺隊が出来る前から人間界と地獄を行き来しながら生活し、20年前に刹那の母である露柱と出会った事。
刹那が産まれてからは人間界に留まり鬼狩りをしていた事。
地獄の鬼神である為、地獄に長く戻らなかった事で力が弱まっていた事。
そんな時に鬼舞辻に遭遇し戦闘にいたった事。
しかし、地獄に戻る筈の亡骸が戻らず死亡を確認できないまま今もまだ消息不明である事。
刹那はその事を知らない事。
宇髄や煉獄は血鬼術により知っている内容だったが、父親が鬼神の長という事と生きているかもしれない可能性がある事に驚いていた。
しかし他の柱の反応は様々。
甘露寺は泣き出し、それを胡蝶が宥める。
悲鳴嶼は静かに祈り、時透、冨岡は悲痛な表情を浮かべ、
不死川と伊黒は鬼舞辻への怒りを深めた。