第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
(杏寿郎.....)
どうしてこんな時に煉獄の顔が浮かぶのか。
どうして今こんなにも煉獄にこの場へ来て欲しいのか、助けて欲しいのか分からない。
もう声を出すことも出来ない。
猛毒と言えど、体内で抗体さえ作ってしまえばどうにでもなるのに
今回の毒は中々抗体が作れず今もまだされるがまま。
悔しい、恨めしい。
(そう言えば前もこんな事があった。あの時は父様が来てくれて....おまじないを教えてくれたんだっけ。)
(確かそれは....)
「おいこいつの肌やべえぞ!吸い付いてきやがる、けっけっ、こりゃ男を魅了する魔性の体だなあ!」
「毒が効いてるうちがいい、今の内にヤっちまおうぜ。」
「ああ、もう!俺我慢できねえよ!」
動かない刹那を見下ろす男達はもう辛抱ならんと言うように、興奮した様子で刹那の腕を掴む手に力を込める。
彼らは気付かない。
自分達の危機に....
「焦るなよ、どうせ全員味わえるんだ。よしよし、良い子にしてればすぐ終わるからなあ。」
舐めるように刹那の太ももを撫でながら脚を広げるリーダー格と思われる隊士。
しかし上手く事が進んだのはここまで。
『.....う』
「おいなんか言ってるぞ!」
「まだ自由は効かないはずだ、聞き間違いだろ?」
「いや本当に!!」
言い争う隊士が刹那を見る。
この時口を塞いでしまえばよかったのだ。
なのにそれをしなかったのは、この時この瞬間まで、自分達が優位なのだと信じて疑わなかったからだろう。
一瞬訪れた静寂に刹那の小さな囁きは、恐ろしい程に響く。
『鬼門解錠-キモンカイジョウ-』
その言葉は、隊士にとっての絶望を連れてくる。