第8章 捌ノ型. 悪意には悪意を
体が動かないのだ。
腕や足、指一本に至るまで全く力が入らず
しまいには上半身までも脱力し始め、その場に項垂れる形になってしまった。
そんな刹那を見て先頭に居た隊士が湯呑みを持ち上げながらニタリと笑う。
「やっと薬が効いてきたか〜?」
『くす、り?』
微睡む意識の中で必死に声を出す刹那。
「気付かなかったろ?この茶に少〜し細工したのさ。無味無臭の猛毒をな。お前は鬼だからな、効くかどうか一か八かだったが、量を増やしておいて正解だった。人間用の猛毒でも効くもんだな〜。」
刹那を取り囲みながら言う隊士を冷たく見つめれば、これから起こる事が何なのか安易に予想出来てしまう。
「安心しろよ、ちょっとばかし俺らと秘密を共有しようぜってだけなんだ。まあ、これから先お前は俺らの奴隷になるって事なんだけどなあ!!」
言って全員がかりで刹那の着物を剥き始めた。
自分の体を這い回る見ず知らずの隊士の手を感じながら、刹那は後悔する。
迂闊だった。
もっと疑うべきだった。
人間とは自分よりも強い者を好きにしたい時、下卑た真似をする生き物だったのに。
ここ数ヶ月で自分の中の警戒心という鎧が鈍っていた事に落胆する。
無味無臭と言えど気付くことは出来たはず。
異変を感じた時直ぐに誰かを呼んでいれば。